九州の国立大学は1つに統合を
経団連は6月13日、国立大学の数と規模を適正化し、大学の質の向上や国際競争力を高めるべきとする大学改革に向けた提言をまとめた、との報道がありました。至極当然な提言だと思われます。日本の人口が2015年の1億2700万人から2065年には8800万人程度に減少すると予想されていることから、国立大学の統合整理は避けて通れません。それと同時に重要なことは、単に数を減らすのではなく、大学の質を高めることです。
私は今、福岡に住んでいますので、九州の話をしたいと思います。九州(沖縄を含む)の人口は、2015年の1,445万人から30年後の2045年には1,200万人へと245万人の減少が予想されています。そうなると国立大学の数はさておき、少なくとも定員が過剰になるのは明らかです。既に小中高生の減少により、必要な教員数が減り、教育学部の定員は過剰になっています。また、歯科医院の数はコンビニの数より多いと言われ、歯学部の定員も過剰と言ってよいと思います。将来医学部の定員も過剰になるのは明白です。これらを調整するには、今の各県に原則1つある国立大学体制では上手くいきません。そこで、九州・沖縄の大学は、1つの大学法人の基に運営を一体化すべきだと思います。九州各県の国立大学は、国立九州大学運営法人の基に運営を統合します。そして各大学は、九州大学福岡校(現九州大学)、熊本校(現熊本大学)、鹿児島校(現鹿児島大学)のような名称とします。この統一運営法人の基で、学部や定員の調整を行います。例えば、各大学の教育学部は定員を減らして熊本校に集約するとか、歯学部は定員を減らして鹿児島校に集約するとか、です。なくなる学部の教員は、集約する校に移るなり、各校で教育に携わるなり運営法人で調整します。これにより各校で余分な教員を抱えず、教員がいない校にはいる校から講義に出向くなどして教員の有効活用を図ります。
この統合は、単に規模の縮小に備えたものでありません。真の狙いは学術水準の向上です。私は、仕事で東京および大阪に在住し、日本最高水準の大学や研究機関および学会の研究発表会を覗いてきました。九州の大学や研究機関の研究発表会も覗きましたが、九州の学術水準は、東京の七掛け、関西の八掛けの水準だと思われます。そしてこれは、各ブロックの最高学府の学力水準に相当するように思います。即ち、東大と九大の差、京大と九大の差がそのままブロックの学術水準差となって表れているのです。関西には九大より学力が上回る大学が他に2つ(阪大、神大)もありますし、東京には5つくらいあると思います。ここの卒業生が地域の科学技術や知的生産物を生み出す力となりますから、各ブロックでこのような差が生じるのは当然です。そしてこのままでは、この差はますます広がるばかりです。そこで九州は、国立大学の統合によりこの差を縮める必要があります。
入試の改革も必要になると思います。現在大学3年になると実質的に就職活動が始まりますから、大学で落ち着いて勉強できる期間は1年次と2年次の2年間しかありません。そうなると大学に入学するや否やフルスロットルで勉強に打ち込む学生でないと大学で伸びることは不可能です。従って、大学はそういう目的と具体的学習計画を持った学生を選抜する必要がります。そのためには、入学者選抜(入試)において、入学目的と学習計画を重視する必要があります。学力は共通一次試験で評価し、最終選抜は入学目的書と学習計画書で行う必要が出てくると思います。今は、私たちの時代のような大学に入ることが目的で、大学に入ってから何をやるか考えるような時代ではありません。優秀な学生を入学させるためには、高校での成績優秀者の推薦入学制度や学費免除制度、給付奨学金制度も拡充する必要があると思います。その原資を獲得するために、九州各県や政令指定都市および企業からの教育支援金の拠出制度も必要になると思います。
統合の目玉制度として、これまで各大学が行ってきた大学院教育は、1つの大学院に集約して行うこととします。例えば、今の九州大学を九州大学大学院校に衣替えし、各校の大学院進学者の教育を専門に行います。これにより、大学院レベルでの教育・研究力の向上を狙います。大学院進学者は、入学選抜の学習計画でも大学院進学を計画していた者が中心となり、3年次から就職活動に煩わされることなく、学習に打ち込めます。ここの人材の質を高めることが九州の国立大学を統合する真の効果でもあります。また、大学院進学者の授業料は免除し、勉学に集中できるよう給付奨学金制度を充実させます。その分、大学院進学基準・在籍基準は厳しくします。あるいは、大学院進学時点で卒業後就職する企業を決定し、その企業から授業料および生活費を給付してもらうことも考えられます。
各校の入学者は全員九州大学の学生となり、九州大学名で卒業証書を発行しますから、九州大学全体の学力は今の九州大学より下がりますが、重要なことは上位者(10~20%)の学力水準を引き上げることです。この部分が京大レベルにならなければ、九州から日本トップレベルの新しい学術成果は生まれないし、当然ノーベル賞受賞者も出ないと思います。
九州は、東京から見ると西の外れにあり、余り関心の対象ではありません。関西からも同様です。このままでは、九州は日本にとっていらない島になってしまいます。国鉄が分割民営化された際、本州のJR東日本、JR東海、JR西日本を生き残る会社として設計し、JR九州、JR四国、JR北海道はこの3社の足を引っ張らないように切り離されたように、このままでは、九州は日本の本州から切り離される運命にあると思います。九州が日本で必要とされる地位を獲得するためには、九州が1つの国として独立できるような経済力を持つ必要があります。そのためには、九州は早期に道州制に移行することが得策であり、先行して九州の国立大学の統合を実現する必要があると思います。
京都では、日本電産の永守会長が京都学園大学の理事長に就任し、300億円以上の自己資金を投入し、10年以内に日本で東大、京大に次ぐNO.3の大学にすると宣言しました。そのため、2019年度には京都科学技術大学に名称を変更すると言います。制御用モーターなど成長分野に絞った科学技術の教育、研究に特化し、教授陣も世界中から搔き集めるのでしょう。京都と言う場所は、研究者にとっても魅力的な場所であり、実力に応じた待遇を提供すれば優秀な教授陣を集められると思います。永守会長が東大、京大に次ぐ大学にするというのは、革新的科学技術を生み出せる知的水準としては、最低京大並みが必要と考えているからだと思われます。それを実現するためには、10年で300億円ではなく1000億円投入する必要があると思いますが、日本電産がこのまま成長を続ければ、永守会長が持つ株式の資産価値も増大するので、この金額の投入も不可能ではありません。
京都の経営者は、京セラの稲森名誉会長が稲森財団を使って国内の多くの大学に施設を寄付するなど学術支援活動を盛んに行っています。稲盛名誉会長社長は、画期的な研究成果を上げた研究者を表彰するため京都賞を設け、賞金もノーベル賞並みの1億円に引き上げました。これにより京都ブランドが上がりますし、いずれノーベル賞と並ぶ名誉な賞となる時代が来るかも知れません。
このように、東京で企業や経営者がお金儲けの競争を繰り広げている中で、京都の企業や経営者は学術投資に力を入れています。結局学術水準が高くないと革新的科学技術は生まれないし、永続的経済活動は不可能ということが分かっているからだと思います。
京都のこれらの動きに刺激され、今後東京などでも大学改革が動き出すと思われます。九州でも九州の生き残りをかけた大学改革が必要です。