世帯購読率69%の新聞がなぜ軽減税率?
新聞の発行部数の減少が止まりません。日本新聞協会の調査データを見ると、一般紙の発行部数は2000年の4,740万部から2017年には3,876万部と18.2%減少しています。世帯購読率は2000年のほぼ100%から2017年には68.9%と約31%減少しています。これは、世帯数が核家族化などの影響で、4,742万世帯から5,622万世帯へと増加している影響もあります。それでもこの数字から、世帯別では68.9%の世帯しか購読していない新聞をなぜ消費税を8%に軽減する(軽減税率にする)のかという疑問が生じてきます。なぜなら、新聞を軽減税率にするということは、新聞を購読する68.9%の世帯のみに軽減税率のメリットを与えることになるからです。これは税の公平性の原則に反します。
新聞が軽減税率になったのは、新聞社が「新聞は国民にあまねく情報を提供するという公益性が強いから、その重要性に鑑み軽減税率に」と強く主張したからでした。消費税導入当時の新聞の世帯購読率はほぼ100%だったことから、この主張も間違いではなかったと思います。しかし、今のように世帯購読率が68.9%となると、逆に軽減税率はおかしいという根拠となります。
新聞の購読者が減少している理由は、いくつかあります。1つは、新聞社も気付いていることですが、インターネットの発達により、欲しい情報が即座にインターネットから獲得できるようになったことです。新聞では、前日の情報を翌日に手に入れるというタイムラグがありますし、欲しくない情報代まで払わされます。この2つの新聞の欠点を克服しているインターネットの発達が新聞の購読部数を減らしている大きな理由であることは間違いありません。
2つ目は、家計に新聞を購読する資力がなくなったということです。1990年頃からのバブル崩壊で日本の家計の収入は減り続けました。やっとこの4,5年底打ちし上昇に転じた感はありますが、家計が豊かになったのは大企業に勤める世帯が中心で、日本の大部分を占める中小企業に勤める世帯の所得は殆ど増えていません。というより、所得の格差が拡大し、低所得世帯は増加していると思われます。その中で、物価は上昇に転じましたから、大部分の家計ではこれまでの出費のうちから何かを止める必要が出てきます。電気、ガス、水道、電話はライフラインですから止められません。となると新聞を止めるしかなくなるのです。家計の中で支出が大きく増えたのは携帯電話料金だと思われます。2017年度の携帯電話3社の売上高総額は約13兆円(ソフトバンクは国内通信収入のみ加味)であり、営業利益は約2兆6000億円、営業利益率約20%となっています。これが家計を苦しくしている要因であることは間違いありません。即ち、携帯電話料金の増加が新聞を購読中止に追いやっているのです。
3つ目は、新聞社があまりに自社利益の確保に走り、そのための広報誌の性格を露わにしたことで、読者から愛想を尽かされたことです。消費税非課税の強奪もそうですし、放送法4条の改正阻止もそうです。また、NHK受信料の不条理に目をつぶっているのも、自社系列の放送局を守るためです。尚、NHK受信料は、生活が困難なため住民税非課税となっている世帯からも徴収していますから、この世帯は新聞を購読する資力はありません。
新聞社は最近、政・財・官の広報誌の性格を強めていますが、新聞が読者の大部分を占める日本の平均所得以下の世帯の味方にならない限り、今後とも新聞の発行部数が減り続けることは確実です。
このように今後とも発行部数が減り続ける新聞を軽減税率にすることは、税の公平性に反し、不条理と言わざるをえません。2019年10月から消費税2%の引き上げが予定され、その中で食品の一部などについては軽減税率となるようですが、新聞は軽減税率から外すべきこと自明です。
2018年6月24日の産経新聞電子版に麻生副総理が新潟での講演で、「新聞を読まない人は全部自民党支持」と発言したという記事がありました。新聞が自民党(政権)の批判記事を書くから、新聞を読む人たちは自民党に投票せず、新聞を読まない若者層は自民党に投票するという趣旨です。麻生副総理は新聞が自民党批判記事を書く意図を誤解しています。新聞が自民党批判記事を書くのは、自民党に新聞社の言うことを聞かないと選挙で獲得票数が減るぞと思わせ、新聞社の利権(軽減税率、放送法4条維持など)を確保するためです。従って、新聞を軽減税率の対象から外しても自民党には利益はあっても不利益はありません。