役員報酬を欧米並みに引き上げれば賃金上昇

2018年3月期の株主総会も終わり、企業の経営陣は本格的に今期の計画達成に向けて走り始めました。私が先期の決算発表後一番注目したのは、経営者や役員(取締役)の報酬額です。先期の役員報酬の最大の話題は、ソニーの前社長の役員報酬額が約27億円だったことだと思われます。これまで日本企業の役員報酬は、欧米企業と比べて著しく低くかたのですが、初めて欧米企業並みになった印象を与えました。ソニーと言えば、欧米人の中にはアメリカまたはヨーロッパの企業と思っている人が多いくらい国際的企業ですから、「エッ、今頃」という印象です。。

一方で気になったのは、トヨタの役員報酬です。社長の報酬が3億8,000万円なのに対して、フランス人の副社長の報酬は10憶2,600万円となっていたことです。社長より地位が下の役員が社長の3倍近い報酬を貰うということは、日本人の常識ではありえないことです。日産のカルロス・ゴーン会長は、日産から7億3,000万円、三菱自動車から2億6,000万円、ルノーから約9億6,000万円、合計約19億5,000万円得ていますから、トヨタのフランス人副社長の報酬は欧米基準に基づくもので、トヨタの社長の報酬は日本の国内基準に基づくもの考えられます。

私は、これまでゴーン会長の10億円を超えるような役員報酬を取り過ぎと考えてきましたが、最近日本の役員報酬が低く過ぎるのだと考えるようになりました。日本の大企業は、ほとんどが海外に工場や販売会社を持ち、事業的には国際企業となっているのですが、役員報酬は国内基準を採用し続けています。これは役員個人の収入の問題だけでなく、日本の勤労者の収入にも大きな悪影響を及ぼしていると思われます。日本の役員報酬が低いのは、終身雇用制のもと会社の利益は社員みんなで分け合うもので、役員だけが高額の報酬を取ってはいけないという考えがあるからだと思われます。この考え方に基づけば、大企業でも部長が2,000万円なら取締役3,000万円、常務取締役4,000万円、専務取締役6,000万円、副社長8,000万円、社長1億円のような報酬体系となってしまいます。

しかし、最近は社員の業績評価や人事評価に欧米企業流の実績主義が導入され、稼ぎが大きかった社員には多くの報酬を出す仕組みとなってきたため、役員についても担当部署の利益に応じた報酬を出す方向に来ているように思われます。その結果、ソニーのように営業利益が過去最高に達したら過去最高の役員報酬が出される仕組みの企業が出てきたのです。

この仕組みは、もう国内企業としても違和感がないものであり、国内企業でも一挙に広がってもおかしくないのですが、なかなか広がらないようです。

欧米のように高額な役員報酬にしないことを従業員も評価している感がありますが、これが従業員の賃金上昇を抑える役割をしていることに気付く必要があります。役員報酬が天井となり、それ以下の従業員の賃金が上がらないようになっているのです。従って、業績がよかったときに従業員もそれに応じた収入を得るためには、先ずは役員報酬を欧米並みの業績連動体系にする必要がります。例えば、トヨタの場合、税引き利益が約2兆5,000億円ですから、その1%を経営陣の報酬とします。そうすると約250億円が役員報酬となります。トヨタの取締役の数は9名ですが、執行役員などを含めた実質的な役員数は50名程度と思われ、単純な1人当たりでは5億円となります。役職ごとでは、社長50億円、副社長20億円(4人)、専務15億円(10人)のような配分になると思います。そうなれば部長クラスは4,000~5,000万円に水準を切り上げ、以下同様に従業員の収入が増加するようになります。増加する分、仕事の責任は増大し、仕事の密度も濃くなります。こうして強い会社になっていくのです。

このように役員報酬を欧米基準にすれば、従業員の収入も上がること必然であり、利益が内部留保として会社の中だけに留まることがなくなります。日本の賃金水準の引き上げには、役員報酬を欧米並みに引き上げることが有効です。