携帯電話の2年縛り契約

総務省から改善を指示されている携帯電話の2年縛り契約について、NTTドコモの社長が見直すとの考えを述べたとの新聞報道がありました。その記事を読んで、また総務省と携帯電話会社で猿芝居を行うではとの懸念を強く持ちました。報道によると、現在は25か月目、26か月目に解約すれば解約料はかからないが、1か月分の契約通信料は払わなければならいので、これを日割りにすることを考えているようです。しかし、2年縛り契約は、そんな小さな問題ではありません。2年縛り契約は、携帯電話3社が家計から収奪することを可能とし、他の公益企業も家計収奪に向かわせる悪魔の契約です。従って速やかに禁止すべきものです。

これまでも総務省が改善点を指摘すると、携帯電話3社は表面的に改善したように装い、実質的にはむしろ改悪しています。前回端末の値引き幅が大きくその分通信料が高くなっているから値引額を小さくするよう指導があった際には、4年縛りを作り出し、ユーザーにとってはむしろ不利益が大きくなる仕組みを作り出しました。

これは、総務省との綿密な打ち合わせなしにはできない芸当です。総務省は改善を指摘する傍らから抜け道を用意しているのです。総務省は、携帯電話回線を有する3社の保護に凝り固まり、携帯電話料金として吸い上げられる家計のことは全く考えていません。携帯電話3社の2017年度の決算は、売上高約13兆円、営業利益約2兆6000億円です(ソフトバンクは国内通信部門のみ)。営業利益率は約20%にもあります。これが発明など画期的な事業により上げた数字ならなんら文句はありません。携帯電話事業は、国民の電波を使った公益事業です。公益事業の代表は電力事業ですが、電力9社の2017年度の決算は、売上高約19兆円、営業利益約9800億円、営業利益率約5%です。これが公益事業の本来の姿です。携帯電話事業が公益事業であることを忘れ、国民収奪事業化していることがはっきり分かります。電力の場合、コストに適正利益を乗せた料金体系となっており、携帯電話事業のような国民収奪事業にはなっていません。それでも同じ公益事業である携帯電話事業の高収益状態を見れば、「ああ、公益事業でもじゃんじゃん儲けていいんだ」となります。そこで電力会社も携帯電話会社の高収益の基となっている2年縛り契約を推進し始めました。このままいけば、ガス、水道、鉄道なども2年縛り契約を導入します。その結果、公益事業会社はみな携帯電話3社のような高収益企業に変身するでしょう。そうなると困るのは家計です。携帯電話料金の増大により、家計はリストラに懸命です。食費を削りますから、スーパーなどの売上高が振るいません。ビールの販売減少もこのためです。それに新聞も止めることになります。新聞購読世帯の減少は、インターネットの影響よりも携帯電話料金の増大による部分が大きいのです。前回消費税を2%引き上げられなかったのも携帯電話料金増大のせいです。その他の公益企業が同じことをやったら、日本の家計は干しあがってしまいます。世界で一番困窮した国民になります。

通常2年契約などの長期契約は、固定コストを賄うためのものであり、利幅は薄いものです。しかし、携帯電話3社の利益を見ると、2年縛りが利益の源泉になっています。即ち、長期でお得ですよと言いながら、高い料金を固定する役割を果たしているのです。それに他社への乗り換えを不可能にし、3社が共に高収益を享受できるようにしています。これは明らかに公正な競争を阻害しています。携帯電話3社のうち、NTTドコモとKDDIの営業利益は、電力9社の営業利益総額に匹敵します。3位のソフトバンクでも約6800億円の営業利益があります。これがはでな海外M&Aや投資の原資になっているのです。これらの数字が競争制限の現実を何よりも雄弁に物語っています。これに対して唯一メスを入れられる公正取引委員会が何もしないのですから、驚きです。これが他の公益企業が2年縛りを導入することにお墨付きを与えているのです。

総務省の通信行政部門の中枢を歩いた官僚の天下り先を見て下さい。携帯電話3社から巨額の資金が流れる企業です。取締役に対して10億円、20億円、あるいは100億円の報酬を払うところもある通信会社にとって、この高収益構造を作ってくれた官僚の貢献は、これらの取締役を上回るものです。IPO株の割当という方法により巨額の報酬が支払われるのではないでしょうか。

総務省と携帯電話3社の関係は、水と魚のような関係です。総務省に任せていても携帯電話による国民収奪は終わりません。ここは携帯電話事業の管轄を経済産業省に移し、電力事業と同じような公益企業体質に変えていく必要があります。

2019年10月から消費税2%の引き上げが予定されており、その金額は約5兆円と言われています。携帯電話3社の回線接続料を半分に下げれば、携帯電話料金約5兆円の値下がりとなり、家計には約5兆円の支出余地が生まれ、消費税引上げの悪影響を回避できます。これでも携帯電話3社は、5000億円くらいの営業利益は確保できます。営業利益5%が公益事業の許される利益水準であり、携帯電話3社の営業利益がこの水準になるまで、回線接続料を引き下げる必要があります。携帯電話3社による家計収奪を止めさせる肝は、回線接続料の引き下げです。それとともに社会的悪影響の大きい2年縛り契約は禁止する必要がります。嫌なら電波を返上させればよいのです。最終的には携帯電話3社の国有化も考えておく必要があります。国民の通信料を下げるための民営化が逆の結果になっているのだから、国有化するしかありません。これくらいの覚悟がないと携帯電話3社に翻弄されます。