スマホの2年縛りが日本の家計を破壊する
8月2日、NTTドコモが2年縛り契約を見直すとの報道がありました。2年縛り契約は、期間のない契約より安い月額料金し、その期間に解約すれば9500円の違約金を払わなければならないとするものです。当初は24か月目に解約するしかなく、多くのユーザーは24か月目を忘れていることから、殆ど自動更新になるか、違約金を払って解約するしかありませんでした。これが問題になり数年前から契約満了月を事前に通知し、25か月目、26か月目に解約すれば、違約金なしで解約できるようになりました。しかし、解約月も1月分の料金を払わなければならないため、結局25か月、26か月縛りになっているという実態がありました。
総務省の2年縛り契約見直し指導に対し、ドコモの見直し案は、違約金なく解約できる月に24か月目を入れ、2年きっちりで解約できるようにするというものです。
しかし、2年縛り契約の問題点は、縛り期間が2年丁度か、2年1か月か2年2か月かというようなことではありません。2年縛り契約の問題点は、これが携帯電話による家計収奪の根本原因になっていることです。総務省は、携帯電話3社が改善案を出しやすいように問題を矮小化して提示したようです。
携帯電話3社の2018年3月期の決算は、売上高約13兆円、営業利益約2兆6000億円です。営業利益率は約20%にもなります(ソフトバンクは国内通信部門のみ考慮)。同じ公益企業である電力9社の2018年3月期の決算を見ると、売上高約19兆円、営業利益9800億円、営業利益率は約5%です。公益事業は、国民の生活インフラとなるサービスを提供するものであり、公益企業の利益水準はコストに適正利潤を乗せた程度とされてきました。携帯電話事業は、この公益企業の概念を破壊しました。携帯電話3社は、携帯電話サービスが国民のライフライン事業であることを利用し、家計から吸い上げられるだけ吸い上げようとしています。家計は、携帯電話料金として13兆円も吸い上げられたら、他の支出を削るしかありません。先ず食費を削る結果、スーパーの売上は減少しますし、ビールの売上も減少します。更に新聞の購読を中止する結果、新聞販売部数は減少し続けています。このように他の業界が不振なのは、携帯電話による過剰な収奪が大きな原因です。
2年縛り契約は、携帯電話3社の今の高収益構造を固定化するものです。携帯電話3社は、2年縛り契約は割安と言っていますが、営業利益2兆6000億円を見れば、割安でないことは明白です。期間のない契約を割高に設定し、2年縛り契約の料金を安く見せているだけです。ここが2年縛り契約の最大の問題点です。公益企業としての携帯電話3社の営業利益水準は、電力並みの5%が妥当であり、2年縛り契約の料金がその水準まで下がれば、2年縛りも許される余地がでてきます。それでも携帯電話3社の間で2年縛り契約の値下げ競争が繰り広げられる環境にすることが必要です。しかし、8月2日、NTTドコモの吉沢社長は「3社で検討したうえで最終決定したい」と述べていているように、2年縛り契約は3社で協議して運用されており、3社間の競争を失くし、3社が今の高収益を享受する要諦となっているのです。これは独占禁止法上の競争制限行為であり、これまで独占禁止法違反行為が行われてきたことを示しています。
MVNO(3社以外の携帯サービス会社)が10%くらいのシェアまで上がって携帯電話料金が下がってきたという論調がありますが、携帯電話3社の決算を見れば、家計からの収奪額は減っておらず、家計への恩恵はないことが分かります。これは、通信回線を持つ携帯電話3社が回線接続料を高く設定しているためです。回線接続料は今の半額に下げる必要があります。これさえやれば携帯電話3社による国民収奪は解消します。
携帯電話の電波は国民の財産であり、総務省が国民の委託を受け管理しているはずですが、その総務省がこのような家計を収奪する携帯電話行政を行って、国民を苦しめています。携帯電話会社のある首脳は、「私どもは総務省が決めたルールに基づき事業をやっているだけ」と述べています。即ち、この国民収奪の元凶は総務省だということです。総務省の通信行政の中枢を歩いた幹部官僚は、退任後携帯電話3社から多額の資金が流れる有名企業に天下っています。これだけの高収益の仕組みを作ってあげたのだから当然ということでしょう。これは事後収賄罪に該当してもおかしくないと思います。この仕組みがある限り、総務省の携帯電話行政は変わらないと思われます。
この2年縛り契約を利用した携帯電話による家計収奪が認められれば、電力やガス、鉄道などあらゆる公益企業がこの仕組みを利用し、国民収奪企業化します。そうなれば日本の家計は破滅します。これを防げるのは、社会的不利益が大きい場合、私的契約や経済活動を規制できる公正取引委員会しかないと思います。ここは公正取引委員会に期待します。