携帯電話料金、4割値下げは5兆円のこと

ドコモが携帯電話料金を2~4割値下げすると発表しました。しかし、値下げにより減収となる金額を聞いて驚きました。わずか4,000億円なのです。菅官房長官が言った4割値下げの金額は、5兆円のことです。

携帯電話料金の値下げが必用なのは、携帯電話3社があまりにも家計から収奪し、家計を苦しめているからです。携帯電話3社の2018年3月期の業績は、売上高約13兆円、営業利益約2兆6,000億円、営業利益率約20%です(ソフトバンクは国内通信部門のみ)。携帯電話は国民の財産である電波を利用したライフラインであり、携帯電話事業は公益事業です。同じ公益事業である電力9社の2018年3月期の業績は、売上高約19兆円、営業利益約9,800億円、営業利益率約5%です。この2つを比べれば、携帯電話3社が如何に家計から収奪しているか分かると思います。公益企業は、国民に安価で良質なサービスを提供する義務があります。そのためにコストに一定の利益を上乗せした収益構造が約束されており、倒産することはありません。この社会的コンセンサスを破ったのが携帯電話3社です。携帯電話がライフラインであることを利用して、家計から際限なくお金を吸い上げる道具にしてしまったのです。携帯電話3社としてみれば、こんなよい仕組みはありません。それもこの仕組みを監督官庁が作ってくれたのですから、笑いがとまりません。携帯電話3社の経営者の中には、「織田信長は、お金が流れ込む仕組みを作ったところが他の戦国武将と違うところだが、自分はこれを監督官庁に造らせたのだから、織田信長以上だ」と考える経営者もいるようです。

この結果、苦しむのは家計です。バブル崩壊後家計の所得は減り続けてきました。この4、5年やっと回復の兆しがありますが、家計の多くは苦しいままです。その中で携帯電話料金の支出が突出して膨らんできました。その結果家計は、食費や衣料費、新聞代などを減らして対応してきました。だからスーパーや一般小売店の売上、ビールの売上、新聞の購読数が軒並み減少しています。

この一方で携帯電話3社の中には、水道水のように流れ込んでくる潤沢なキャッシュを担保にして借入を膨らませ、海外で派手にM&Aや投資を行っているところもあります。新聞やテレビでは称賛されていますが、よく考えると家計から収奪されたお金が元になっているのです。称賛するようなことではありません。

そこで出てきたのが、菅官房長官の携帯電話料金は4割値下げすべき、という発言です。家計から流失しているお金は、売上高に現れていますから、約13兆円です。4割とは売上高の4割、13兆円×0.4=5.2兆円のことです。約5兆の値下げがあれば、携帯電話3社の売上高は約8兆円となります。これでも営業利益は約4,000億円程度は出ます。営業利益率は約5%となり、電力9社の水準となります。この5兆円の値下げは、携帯電話料金の値下げと端末の値下げおよび端末買い換えの減少で実現されます。NTTの値下げ発表を見ると、通信料と端末の割賦価格を一緒にして携帯電話料金としていたのを、通信料と端末価格を分離し、通信料については2~4割下げます、ということのようです。この金額が4,000億円のようです。これでは他の2社も同様の値下げを行っても、約1兆円しか家計の負担は軽くなりません。携帯電話3社は、売上高約12兆円、営業利益約1兆6,000億円、営業利益率約13%となり、まだまだ高収益です。実は売上高は、通信料の値下げにより増加し、営業利益もそれほど減少しない結果になると思います。即ち、家計から流失するお金はそれほど減らないということです。

携帯電話3社の料金値下げ問題は、電力、ガス、水道、鉄道などの公益企業の注目の的です。というのは、同じ公益事業を行っている携帯電話3社があれだけの高収益が許されるのなら、自分らも許されるはずという考えがあるからです。電力会社の中には、携帯電話3社の高収益の仕組みである2年縛り契約を導入し始めたところがあります。公益企業がみな携帯電話3社並みの営業利益率を目指したら、家計の支出は軽く10兆円増加します。日本の大部分の低所得家計は破産します。

このように携帯電話3社の料金問題は、公共料金のあり方をめぐる問題であり、家計破綻を防げるか否かの問題でもあるのです。

NTTは、通信料2~4割の値下げによって4,000億円の減収を被るわけですが、これは「肉を切らせて骨を切る」とは逆の「肉を切って骨を切らせない」作戦です。

携帯電話3社はこれまでに10兆円を上回る超過利潤を得てきました。ここで一旦公益企業の原点を認識させるためにも、5兆円の値下げ(減収)を実現する必要があります。