携帯電話料金値下げの肝は、通信回線の公共プラットホーム化
携帯電話料金をドコモが2~4割値下げすると発表し、値下げの動きが具体化してきたようです。しかし、KDDIは既に実施したので、追随値下げはしないと言っています。そのKDDIの2018年9月中間期の決算は、売上高 2兆4,623億円(前年同期比+1.9%)、営業利益5,612億円(同+3.4%)、営業利益率22.8%(+0.3%)という見事なものでした。
モバイル通信料は292億円の減収となっていますが、これは値下げの効果とMVNOへの移行があると考えられます。しかし一方、MVNO収入が105億円増加していますから、実質的な値下げ効果は187億円程度と考えることが出来ます。このようにKDDIの値下げは、収奪されている家計には殆ど効果がないのです。携帯電話事業は、回線を保有していれば、それだけで儲かる仕組みになっているのです。
そもそも現在の携帯電話料金値下げの背景には、公益事業でありながら家計から収奪し過ぎていることがあります。KDDIの前回の値下げには、この根本的反省がなく、値下げは減収の影響が軽度に留まるよう巧妙に計算されたものでした。それはこの中間決算が証明しています。このKDDIの自分たちだけ儲かればそれでよい、家計からは収奪できるだけ収奪せよ、という姿勢は、未だかって日本企業にはなかった姿勢です。KDDIを創業したのは、京セラ創業者の稲盛和夫氏であり、KDDIには稲盛イズムが流れていると言われますが、稲盛氏は家計からは徹底的に収奪せよ、と教えたのでしょうか。
この姿勢を更に強化するかのようにKDDIは、楽天との提携を発表しました。KDDIが楽天に不足する通信設備を貸し出し、楽天は決済システムや物流システムで協力するという相互補完的な内容です。携帯電話業界は通信回線を保有する3社の寡占で、それが料金の高止まりを招いたと原因とされており、そのために楽天に第4の通信回線保有会社としての免許が交付されました。これで競争が激しくなると期待した向きにとっては、ゆゆしき提携です。楽天の場合、携帯電話料金は3割は下げられると言って免許の交付を受けましたが、その後3年縛りを拡販するなど、携帯電話3社の競争阻害手段を真似、4社寡占状態を作る意図丸出しでした。それが今回のKDDIとの提携で更にはっきりしました。合併がだめでも提携があるさ、というわけです。総務省と公正取引委員会をあざ笑うやり方です。
こうなったら政府としても腹を決めて携帯電話3社に公益企業の規を教える必要があります。最も重要なのは、通信回線の公共財産化、公共プラットホーム化です。携帯電話3社の高収益の源泉は、通信回線を保有していることです。通信回線を持っていれば、ぼろ儲けできる仕組みになっているのです(総務省に作らせたのですが)。同じような仕組みの公益事業である電力の送電線は、発電企業ならどこでも利用できるように送電線保有会社に分離される計画です(2020年4月までに)。ならば携帯電話通信回線も通信回線保有会社に分離し、通信サービスを行う事業会社が同じ条件で利用できるようにする必要があります。そうすれば、今の携帯電話3社とMVNOが同等の条件で競争でき、通信回線を活用した多彩なサービス競争が出現します。
これを実現しない限り、携帯電話業界の競争環境は実現できません。これを実現すれば、KDDIと楽天のような悪企みも意味をなさなくなります。
更に踏み込んで、通信回緯線の国有化も検討すべきです。国有企業では国民コストは大きくなると言うことで、NTTを民営化し、通信自由化が行われたわけですが、それが今のような家計から収奪できるだけ収奪するという原因になったらとしたら、逆に国有化に戻せば良いということになります。
加えて、楽天が期待に反したら動きをするのなら、電力9社に新たに通信回線を保有する免許を与えればよいと思います。電力9社は公益事業の何たるかを知っていますし、鉄塔や電柱を多数保有し、通信設備を整備する時間もかかりません。資金もあります。
楽天が競争促進的な動きをするとは考え難く、当面使用できる電話番号の割当を少なくし、様子を見るべきだと思います。携帯電話という公益事業によくもまあこれだけ道徳観念のない企業が揃ったものです。