ソフトバンクの上場、家計としては祝福できない

ソフトバンクグループの国内通信子会社ソフトバンクの上場が12日に承認され、12月19日頃東証1部に上場される見通しとの報道がありました。上場すれば時価総額7兆円となり、ソフトバンクグループは4割程度の株式を売り出し、最大2兆6,000憶円の資金を手に入れるとのことです。ソフトバンクらしい華やかで派手な出来事ですが、日本の家計としては祝福できなません。

ソフトバンクの2018年3月期の決算は、売上高約3兆2,300億円、営業利益約6,800億円、営業利益率約21%でした。2019年3月期の予想は、売上高約3兆7,000億円、営業利益は約7,000億円、営業利益率約19%となっています。この9月中間決算の営業利益は4469億円なので、実際の営業利益は8000億円程度行くのではなでしょうか。数字を見ると素晴らしいのですが、携帯電話事業の性質およびこのお金の出どころを考えると、家計は喜べません。

携帯電話事業は、国民の電波を使った公益事業です。それも携帯電話は、水や電気、ガスと並ぶ国民のライフラインと言えるものです。これがこんな利益を上げてよいのかと言う疑問が生じます。公益事業の代表格である電力9社の2018年3月期の決算を見ると、売上高約19兆円、営業利益約9,800億円、営業利益率約5%です。電力料金は、国民生活への影響が大きいため、コスト+適正利益に基づいて決められ、電力会社の利益水準は概ね1ケタ台に押さえられてきました。そのため電力株は配当株と言われ、株価の上昇益を狙うものではなく安定的な配当を狙うものとされてきました。同じ公益企業でありながら、携帯電話事業では営業利益率20%以上、電力では5%というのはどういうことなのでしょうか?

それにソフトバンクの売上高は、家計から支払われた携帯電話の料金や購入された端末代などであり、この分家計のお金が無くなっているということです。ソフトバンクへは昨年の営業年度で約3兆2,300億円のお金が家計から流れています。携帯電話3社へは合計約13兆円流れています。2000年以降家計の所得は減り続け、家計は食費や衣料費、新聞代などを節約して遣り繰りしてきました。その結果、スーパーやその他の小売店は売上が減り続け、新聞の購読部数も減り続けています。このような中で携帯電話代の支払は増え続けてきたのです。この料金が電力のようにコストを元にした適切なものであれば文句はありません。しかし、この営業利益率を見ればそうなっていないことは明確です。

そして、ソフトバンクグループがこの利益を何に使っているかというと、海外企業のM&Aや海外企業への投資です。家計の資金がソフトバンクの巨額なM&Aや投資の資金になって、海外へ流失しているのです。ソフトバンクの国内携帯電話事業から生まれた余剰資金は、昨年度で約6000億円程度です。これを考えると10兆円以上の借入が可能となります。ソフトバンクグループは、携帯電話によって家計から吸い上げた資金を返済原資にして、巨額な借入を起こし、巨額なM&Aや投資を行っているのです。ソフトバンクグループには約15兆円の借入などの負債があり、それはアリババなどの株式の含み益が担保となっているという説明がありますが、お金の出し手としては、国内通信事業から生まれる余剰資金(キャッシュフロー)を見ています。株式は、市場がクラッシュすれば役に立たない資産となりますから、返済原資としては不安があるのです。

こうして、ソフトバンクグループは、国内通信事業が生み出すキャッシュフローを利用して巨大な投資会社になりました。即ち、ソフトバンクグループが今のようになれたのは、携帯電話により家計からお金を吸い上げ続けたからです。

菅官房長官が携帯電話料金の値下げが必用と述べたことを契機として、政府内で携帯電話料金値下げへ向けた検討がなされています。これに対してドコモは、来年以降携帯電話料金を2.5~4割値下げすると表明しました。これに対してソフトバンクとKDDIは、携帯電話料金は適正であり、既に値下げは実施済みであるとして、追加値下げはしないと述べています。ソフトバンクとKDDIの2019年9月中間期の決算は、増収増益であり、値下げが巧妙に仕組まれたものであることが分かります。

携帯電話事業は、携帯電話3社が国民の電波の利用権を借りて行っているものであり、携帯電話3社が創造した事業ではありません。通信事業は、電電公社による国営事業だったものを、通信コストを下げるために民営化されました。そして携帯電話通信電波の利用権が携帯電話3社に貸与されました。今の携帯電話3社のやり方は、この経緯を忘れ去ったとしか思えません。携帯電話3社が携帯電話を家計からの収奪手段として使うなら、国営化に戻すかということになります。

通信事業は、法律で決めればどうにでもなります。ソフトバンクやKDDIが値下げしないのなら、法律で電力のような料金体系にするしかありません。

ソフトバンクの孫社長は、まるで経営の神様のように言われていますが、この通信事業については、そうは思えません。「織田信長はお金が流れ込む仕組みを作ったところが他の戦国武将とは違ったところ」という認識は正しいと思いますが、信長がお金を集めたのは商人などの事業者からです。一般庶民からは取っていません。だから庶民から歓迎されたのです。信長をヒントにして家計からお金が流れ込む仕組みを作った(というより監督官庁に作らせた)とすれば、それは間違っているということになりますし、家計から歓迎されることはありません。だからソフトバンクの上場は、家計としては祝福できないのです。