産業革新投資機構(JIC)、問題なのはベンチャー投資

経済産業省と同省所管の産業革新投資機構(JIC)が喧嘩しているようです。問題の発端は、役員報酬が高額過ぎると朝日新聞が書いたことでした。この報酬については、事前に経済産業省とJICが協議し、経済産業省が承認していたということです。しかし、新聞報道を受けて、政府内で問題視する人が出てきたようで、決まっていた報酬案に経済産業省が待ったをかけたと言うことです。経済産業省は、事務次官まで出向いてJICの社長に待ったの理由を説明したようですが、JICの社長はその説明の席を蹴ったということですから、経済産業省も面目丸潰れです。JICの社長は、三菱UFJフィナンシャル・グループの副社長、同グループの米国銀行や世界的な投資銀行モルガン・スタンレーの取締役を務めた人で、こんな行動は珍しいことではないということです。経済産業省は身の丈を超えた人を社長に据えたようです。

JICのような投資ファンドの役員などの報酬が成果に応じて高額になるのは当然のことです。投資資金は、政府保証で調達したもので公的資金ですが、報酬の原資は利益ですから、高額報酬でも問題ないはずです。政府で問題になったとすれば、同じ資金運用ファンドである年金機構や政府系金融機関の報酬との兼ね合いだと思われます。特に年金機構の場合、これまでも役員や運用担当者の報酬が議論されながら、抑えられてきたと予想されます。年金運用ほど重要でないJICの役員などに、年金機構を上回る報酬は出せないという話だと思います。

私は、JICが投資ファンドである限り、運用成績に連動した報酬体系は不可欠だと思います。JICの主な任務は、企業再生であり、企業再生の過程では身の危険を伴う場面にも遭遇します。それでもやり遂げる動機は、高額の報酬しかありません。だから、より多くの再生を成功させるためにも、成果に応じた報酬が必用です。しかし、次に述べるように、JICは、最後は巨額の損失を作って終わることが確実なので、この高額報酬が実現することはありません。

JICの本当の問題は、政府保証で簡単に潤沢な資金が調達できることから、JICの本来の任務ではない投資や運用まで手を出すことです。新聞の報道によると、海外のバイオや創薬ベンチャーに投資する2,260億円の子ファンドを作り、この下に実際に投資する4億ドルの孫ファンド、および海外のバイオ関連の公開株に投資する3億ドルの孫ファンドをぶら下げることが決まっているとのことです。JICの社内に、海外のバイオベンチャー企業関係者かバイオファンド経験者がいるのでしょう。JICの設立の目的は、既存の国内企業を再生し、革新的企業へ脱皮させることであり、ベンチャー投資、それも資金が海外に流れる海外向けベンチャーファンドの運用は、JICの本来の業務範囲を明らかに逸脱します。政府保証で1.8兆円まで調達できることを利用して、運用範囲の拡大を図ったものと思われます。これは、資金調達の安易さから来る当初から予想された暴走です。JICは、官制の博打会社化しています。

JICは、既に国内のベンチャー企業へも投資していますが、これも本来の任務ではありません。国内では、民間VCでも投資資金は豊富であり、むしろ投資先がないくらいです。なにもJICが投資する必要はないのです。それにJICが民間ベンチャー・キャピタル(VC)に勝る点は、政府保証による資金調達以外、何もありません。JICのベンチャー投資の担当者は、民間VC経験者が多いはずです。民間VCで成功した人は、そのまま民間VCの幹部になっているか、自分でVC会社を興していますから、民間VCからJICに来ているベンチャー投資の担当者は、ベンチャー投資の成功者ではありません。また、メーカーや銀行出身などVC経験のないベンチャー投資の担当者は、これまでに経験してきた業務とVC業務の違いに気付くのに5年かかりますから、彼らが担当した投資は、ほとんどが失敗します。即ち、JICのベンチャー投資は、まず成功することはなく、最後に巨額な損失だけが残ります。VC投資の経験者なら、みんな分かっていることです。

通常、民間VCの場合、毎年資金拠出者に運用状況を報告しますが、資金拠出者も企業を見る目があるところが多いため、投資先が悪いと厳しく批判されます。そして、運用成績が悪ければ次回は拠出しないと言うことになり、VCは淘汰されて行きます。しかし、JICの場合、懐が本当に痛む人がいないため、厳しいチェックは期待できません。従って、最後に巨額の損失を抱えて、「仕方ないね」で終わりです。JICに参集した投資経験者は、この結末を知っています。JICに参集したハゲタカのターゲットは、投資先ではなくJICの資金です

このように、政府資金を使ったベンチャー投資は、明らかにJICの任務外であり、損失を膨らませる結果にしかならないことから、即刻中止すべきです。