医学部入試の規範、各大学の承認手続きを踏んでいるのか?

11月16日、全国医学部長病院長会議は、「大学医学部入学試験制度に関する規範」(以下入試規範)を制定し、発表しました。これは、7月に東京医科大学で、便宜供与の対価として文部科学省の現役局長の息子を入学させるという不正行為、および女子や浪人回数の多い受験生を不利に扱っていた事実が判明したことが発端になり、その後文部科学省が全国81の大学医学部を調査した結果、他の大学でも不適切と思われる事例が見つかったことにより、制定されたものです。他の大学でも不適切と思われる事例が明らかにされたのは10月であり、入試規範は11月に制定されていますから、わずか1か月の検討期間で制定されたことになります。

ここで言う不適切な事例というのは、あくまで文部科学省が不適切と考える事例であり、現実を考えれば合理性がある事例が殆どであり、入試規範が大学経営および運営に及ぼす影響の重大さを考えると、制定手続きに掛けた時間が異常に短か過ぎます。大学入試制度は、大学の建学精神や運営方針ともかかわる大学経営の重大事項です。ならば、全国医学部長病院長会議に参加している各大学で慎重に検討して、大学の最高意思決定機関での承認が必要なはずです。これらの手続きが僅か1か月の間になされるのは不可能です。即ち、全国医学部長病院長会議の入試規範は、各大学の承認を得たものではないと思われます。全国医学部長病院長会議の中に検討委員会を設け、その中に問題となっている項目ごとに4名程度からなる起案委員をおいて、起案委員の案を検討委員会で検討し、承認された案を全国医学部長病院長会議の全体会議に掛けて、承認されたものと思われます。この手続きと時間では、ほぼ起案委員の案を承認するしかありません。この問題は、全国医学部長病院長会議で承認する前に、各医学部長および病院長は、案を各大学に持ち帰り、大学として承認するか否かの機関決定を得る必要がありました。これを得ていなければ、この入試規範は、全国医学部長病院長会議に参加している医学部長および病院長に対してのみ効力を有し、各大学には効力はないことになります。

決定された入試規範を見ても、明らかに検討不足で、説得力に欠けます。例えば、多浪や女子に対する差別は、「公平性」および「医療人確保」に則って判断すると、決して許容できない、と述べていますが、果たしてそうでしょうか?現役や男子を優先することは、浪人は理解力が劣る結果であること、医療の現場において男子が求められることを考えれば、ある程度合理性があります。起案委員は、理想主義のマスコミに追従し、大学経営の観点が疎かになっています。また、医学部入試のもっと大きな問題は、無試験がまかり通る内部進学ですが、これについては評価を避けています。

この入試規範は、各大学に持ち帰り検討すれば、すんなり承認される内容ではありません。全国医学部長病院長会議が決定した入試規範は、明らかに拙速であり、各大学に対する拘束力はないと言わざるを得ません。こんなもので各大学を縛るなら、医学教育は、国立医師養成所で行うものとし、各大学医学部および医科大学は、ここに吸収すべきです。