JICの取締役辞任事件、経済産業省の劣化が深刻

12月10日、産業革新機構(JIC)の民間取締役9名が辞任を表明しました。新聞報道で、JICの取締役の報酬が1億円超えもある報酬規定となっており、政府系機関として問題ではと指摘され、大騒動に発展しての結末でした。そもそもこの報酬規程は、経済産業省が提案したものでした。ファンド運用会社として、成果に応じて報酬を支払うのは当たり前であり、1億円超える金額は、JICのようなファンド会社の中では高い金額ではありませんでした。私も新聞報道を見て何が問題なのかさっぱり分かりませんでした。日銀総裁や事務次官などの報酬と比較して高額という論理でしたが、仕事の性格が全く違いますから、比較の対象が間違っています。それに報酬の出どころは利益であり、税金ではないことから、問題にすることではないと思いました。なのに、経済産業省が報酬案を撤回したと聞いて、びっくりしました。JICの社長が怒るのも無理はありません。

その後の収拾過程で、経済産業省の事務次官がJICの社長に説明に行ったところ、JICの社長は説明の席を蹴ったという話ですので、これはちょっとやり過ぎとの印象を受けました。どうもこのJICの社長は、米国勤務が長く、世界的投資銀行の取締役も務めていた経験があるということですので、少しはったりをかませ過ぎたようです。米国かぶれした日本人ビジネスマンにたまに見られる行動です。これによって、修復不能は確定したと思います。経済産業省の事務次官と言えば、中央官庁を代表するエリートであり、これが傘下にある会社の社長から侮辱されたとなると、謝って元に戻ることはありません。従って、このことによりJICの社長の続投はなくなったと思われます。後は、他の民間出身取締役の動向です。これまでよくあったのは、社長のみ辞任して他の取締役はそのまま、そして他の取締役の中から社長を選任するということでした。今回は、一部の取締役は社長と共に辞任することは予想できましたが、全員が辞任することはちょっと驚きでした。ファンド運営は経営陣に任せるとの経済産業省の約束を信じて取締役に就任したとすれば当然の行動とも考えれますが、政府系会社の場合、名誉職的に取締役に就任する人も多いのです。従って、9名の民間出身取締役の辞め方はプロの辞め方です。

少し、JICについて考えてみると、ちょっとおかしな会社です。名前からして日本の産業の革新、高度化を目指して投資する会社だと思われますが、運営方針を見ると、先ず海外のバイオや創薬のベンチャー企業に投資するファンドを作るなど、海外志向です。既に米国にファンドを作っていたということですが、米国のベンチャー企業に投資しても、米国の産業革新には寄与しても日本の産業革新には寄与しません。また、既に公開したバイオや創薬のベンチャー企業の株式に投資するファンドも計画されていたということですが、これでは運用成績を競う運用会社です。JICの中にいくつかの分野ごとに大きな投資枠を持ったファンドを作り、その下にいくつかのファンドを置き、ファンドマネジャーに運用を競わせる体制が考えられていたと言うことですので、JICは、ファンド運営会社、或いはファンド資金配分会社と言うことになります。

これは、JICの設立目的から外れて来ていたと思われます。辞任した取締役の1人は、ファンドの運用にいちいち経済産業省が口を出すのなら、今後5年、10年の運営に責任を持てないと述べていましたが、それなら60歳を超えた人が常勤の執行責任者についてはいけないと思われます。ファンドの行く末を見届けられないし、この年齢では若い人が多いベンチャー企業との付き合いも難しくなります。

このようにJICは、そもそも事業計画が生煮えだったと言わざるをえません。経済産業省の劣化が深刻です。