鴨は骨までしゃぶれ?

12月19日、ソフトバンクが上場しました。売り出し価格が1株1500円で、初値が1463円と売り出し価格を下回るものでした。その後も下げ続け、翌日には1175円の最安値を付けています。日経平均も一時2万円を割り込むなど惨憺たる状況です。当たり前です。ソフトバンク株の売り出しで約2兆6000億円の資金が株式市場から吸い上げられたのですから。この金額は東京市場の1日の売買金額に相当しますので、市場で売買に使われていたお金が無くなってしまったわけです。ソフトバンク株の購入に使われた資金が又市場に戻って来るまで東京市場は低迷を続けると思われます。

今回、この2兆6000億円の資金は親会社ソフトバンクグループ(SBG)の懐に入ったわけですが、今回の株式公開で意外にもSBGの孫社長は一度もマスコミに登場していません。登場しているのはソフトバンクの宮内社長だけです。公開企業はソフトバンクだから当たり前という見方もありますが、ソフトバンクは孫社長の会社であり、この株式公開は孫社長の偉大さを示す機会なのですが、孫社長は表に出ることを避けているように見えます。

当たり前です。これは孫社長から考えると大儲けなのですが、国民から考えると大損だからです。ソフトバンクは、国民の財産である電波を使い、国民から高い携帯電話料金を取り、巨額の利益を上げてきました。そして、SBGは、その利益を使って、海外で巨額のM&Aや投資を行ってきました。SBGへの資金の出し手は、日本の家計だったのです。そして、今後携帯電話の値下げは不可避で、携帯電話事業の利益が減ると見たSBGは、その減収分をソフトバンクを公開することで回収することにしたのです。2兆6000億円と言えば、今後ソフトバンクの年間利益が2000億円減少すると仮定すると約13年分の利益を確保したことになります。

SBGは、2兆円以上の株式売却益が発生しますから、今期の決算に基づき来年は、1兆円近い税金を納めるはずですが、そんな馬鹿なことはしないと思われます。SBGのバランスシートには、4兆円以上の負ののれん代(買収額と買収された会社の純資産額との差額)が計上されていると言う報道ですので、これを償却して株式売却益を消すと予想します。これは帳簿上の処理で、現金が出て行くわけではないので、資金は丸々社内に残ります。残った資金は約18兆円とも言われる借入の返済に回し、財務内容を改善すると思われます。SBGは、借入金を上回るアリババなどの株式資産を持つと言っていますが、これは株式相場が下落すれば価値が減少します。また市場が低迷している状況では、処分し借入金の返済に回すのも不可能になります。これまでは、SBG内にソフトバックを抱えており、その利益を丸々吸い上げて借入金の利払いや返済に充ててきました。ソフトバンクの配当性向が85%と極めて高くなっているのは、公開後もSBGが持つソフトバンクの約63%の株式から、配当収入を得て、SBGの年間2600億円とも予想される利払いなどに充てるためです。SBGは、もう利益の中心はソフトバンクではなく、10兆円のビジョン・ファンドだと言っていますが、ここの利益は評価益であり、現金では入ってきません。投資先に問題が生じたら評価損に転じ、株式相場が悪化したら、一挙に減少します。SBGの経営は、ジェットコースターに乗っているようなものなのです

一方公開会社になったソフトバンクの宮内社長は、いま問題になっている携帯電話料金の値下げについて、既にY!モバイルなどで十分値下げしてきており、今後値下げする予定はないと言っています。ソフトバンクの2019年3月期の決算は営業利益8000億円が想定されます。2018年3月期が約6400億円ですので、大幅な増益です。営業利益率は軽く20%を超します。この高い利益率は、家計収奪が酷いことを表しています。同じ公益企業である電力会社の営業利益率は約5%です。公益企業は、国民のライフラインを提供することから、国が一定の利益が出る料金体系を保証し、その代わり安価な料金でサービスを提供することを使命としています。なのに、携帯電話会社だけ、公益企業の規範を忘れ、家計収奪に走っています。公益企業は、その気になればどこも営業利益率20%は達成できます。もし電力会社が営業利益率20%を目指せば、家計から少なくとも今より5兆円余計に吸い上げられます。これにガスや鉄道などが続けば、家計から今より10兆円以上が余計に吸い上げられることになります。これでは、多くの家計が破綻します。

ソフトバンクが強気でいられるのは、携帯電話回線を保有し、その使用料を決める権限を持っているからです。回線コストに多くの利益を上乗せして、顧客が格安携帯サービス会社に移っても回線使用料で高い利益を得る構造にしているからです。従って、今回の携帯料金値下げにおいては、携帯電話回線のコストを透明化し、適正な使用料を設定する仕組みを作ることが不可欠です。

SBGがここまで大きな企業になったのは、ソフトバンクの携帯電話事業で家計から多額の資金を吸い上げたからであり、家計はSBGにとって鴨のような存在でした。そして、ソフトバンクが株式を公開するにあたり、鴨から2兆6000億円の大部分を吸い上げました。ソフトバンクは、これからも携帯電話料金を下げず、鴨から多額の資金を吸い上げ続けるつもりのようです。鴨は骨までしゃぶれということでしょうか。