熊本への提言 3.持続可能な農村作りに向けて

日本の人口が減少する中で、熊本も今後大きく人口が減少することが想定されています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、熊本の人口は、2018年12月の175万人から、2060年には118万人に減少するとのことです。熊本県の計画では、これを2060年144万人までの減少に留めるとしています。

今人口減少が最も深刻なのは、農村においてであり、それも熊本市内から1時間以上離れた遠隔農村地帯ではないかと思います。遠隔農村地帯では、離農・廃農で人口減少の底が見えない状況で、放っておけば農村消滅にも成り兼ねないと思います。農村消滅を防ぐには、経済的に豊かな農家を作ることが不可欠です。農家が経済的に豊かにならない限り、離農・廃農は止まりません。

遠隔農村地帯の農家(遠隔農家)が豊かになるための営農モデルを作り上げる必要があります。遠隔農家の場合、主力農作物は米になると思われます。米の単作で豊かな農家になる耕作面積を考えると、農家1戸当たり水田10ha必要となると思われます。

計算してみます。

 10a(0.1ha)当たりの収穫量 530kg(仮定)

 米価              30kg紙袋換算 @6,000円(仮定)

 10haの収穫量  530kg×1,000a=530,000kg

 10haの収入   530,000kg÷30kg×@6,000円=1,060万円

10haの水田があれば、米単作でも1,000万円の収入が得られることになります。これに稲作後の作物の収穫を考えれば、税引き後1000万円の所得も可能となります。そうなれば、農業は魅力的な職業となり、永続可能となると考えられます。

現在、熊本の水田の耕地面積は70,000ha(2015年農林業センサス)とされていますので、米作農家1戸当たりの水田面積を10haとすると、米作農家は7,000戸に留まることになります。熊本の場合、総農家数は58,400戸(くまもとの農業2016。以下同資料。)で、そのうち農業を主業とする主業農家は約13,800戸となっていますが、農業産出額に占める米の割合は約11%(野菜36%、畜産33%、果樹9%)であり、この割合に見合う米作農家の戸数は約6,400戸(58,400戸×11%)となりますので、水田10haと言う数字は、農業産出額に見合う米作農家の耕作面積ということになります。またこれは、農家の大部分を占める農業所得以外で生活している兼業農家約40,000戸の離農・廃農により、主業農家へ農地の集約が進むことにより、実現すると考えられます。

今後は、野菜、畜産、米、果樹など生産品目ごとに農家の専業化が進むと予想されますが、遠隔地は、米作農家が中心になると思われます。というより、遠隔地は米作中心で行くしかないと思われます。その場合、重要なのが離農・廃農した農家から米作農家へ水田が集約される仕組み作りです。現在の様子を見ると、離農・廃農した農家は、農地を農業に従事しない子供に相続させ、子供は管理しきれず荒れ果てるに任せている状況が多いと思われます。農家には、農地は先祖代々守るものという思想があり、子供も自分が育った土地として愛着があり、相続は当然と考えます。しかし、その子供の子供となると、多くが都会で育ち、農地は殆ど見たこともなく、愛着はありません。従って、相続した子供が亡くなると、土地の境界も分からなくなり、荒れ果てた農地(山林なども)が自然災害の原因になり、道路や他人の農地に損害を与え、多額の復旧費を負担することとなる負の遺産化します。従って、農地については、農家の子供であっても、農業に従事しない限り、相続できない制度にすべきだと思います。実際、今の農地取引では、農業に従事しない者は農地を取得できない制度になっています。これは、農地保護のために作られた制度です。ならば、農家の相続人でも、農業に従事しないのなら、相続を認めないとするのも合理性があります。相続は、権利の移転であり、農地の売買と同じ性質のものです。

こうして、相続できない農地は、農家に有償譲渡することとします。この場合、譲渡益は非課税とします。譲渡先がない農地は、農地中間管理機構が買い取ります。そして、耕作する米作農家を探し譲渡するか、賃貸します。また、新規営農者に貸し与えます(営農実績が出来れば譲渡)。こうして、水田は、米作農家に集約し、1戸当たり10haの耕作面積を実現します。これにより、遠隔地の農家数は大きく減少しますが、消滅することはなくなります。尚、現在農家では、売買が難しい水田にスギやヒノキ、クヌギなどを植え、現況山林または原野として農業従事者以外に売却できるようにすることが行われていますが、これも禁止する必要があります。

熊本の人口減少問題への対策は、若者の県外流出防止のための職場の確保、出生率の上昇のための支援が中心となると思われますが、根本的解決は、豊な農業の実現にかかっていると思います。