熊本への提言 6.人口減少対策としての居住エリアの設定
2019年1月1日付けの熊本日日新聞電子版に、熊本地震の被災者が暮らす西原村の建設型仮設住宅「小森仮設団地」について、西原村は集約化に向けた動きを本格化するとの記事がありました。323戸ある団地が2018年12月末現在132戸の入居者となっており、入居棟を集約するとのことです。
今後熊本の多くの市町村(以下町という)では、人口減少により、小森仮設団地と同じ状況が起きようとしています。山間部に限らず、町の中心部でも、高齢化や若者の流出、出生率の低下により、人口が減少し、空き家が増えています。その結果、生活機能が維持できない町も出てきています。例えば、買い物をする場所がない、病院がない、学校が遠い、水道が維持できない、などで住める場所ではなくなって来ています。
今後このような町では、居住エリアを設定し、町民には、できるだけ居住エリアに居住してもらう政策が必要になってくると思われます。富山などではコンパクトタウン構想が進められていますが、これは町の機能の向上という目的が大きいと思われます。しかし、大きな人口減少が予想される町においては、生活機能の維持・確保という観点から、居住エリアの設定が必要となります。
例えば、町の中心部を囲む2km四方のエリアを居住エリアと設定し、役所、病院、学校、幼稚園、福祉施設、スーパーなど生活に不可欠な施設を整備します。そして、町民には、このエリアに居住してもらいます。エリア外に住んでいる人には、町で居住エリア内に住宅用地を確保し、分譲または賃貸し、家を建て転居してもらいます。経済的事情で家を建てられない人には、居住エリア内の空き家か町営住宅を提供します。このようにして、居住エリア外に住む人を居住エリア内に集約します。現在居住エリア外に住んでいる人は、その住民の代に限りそのまま住めるものし、新築は禁止します(作業小屋の建設は可)。そして、居住エリア外については、将来水道の供給、市町村道の整備も行わないこととします。これによって、居住エリア外は、水田や畑、山林専用用途となります。住民は、居住エリアで居住し、居住エリア外には車などで農業などの仕事に行く形態となります。会社員が自宅から会社へ通勤するのと同じ形態です。
この制度の導入は、2つの問題から不可避になると考えられます。1つは、水道の問題です。現在、人口減少で水道設備の維持が困難となる自治体が増えています。そのため、2018年12月には、水道の民営化法案が成立しました。同じくライフラインに属する電気やガス事業は既に民営化されているのですから、水道が民営化されても問題ないとも考えられます。最近は、空港まで民営化されています。しかし、これらの民営化と水道の民営化は、明らかに状況が異なります。電気やガスは、増加する人口に対応するために民営化されました。それは、公営でも十分経営できるけれども、民営化した方がもっと安い価格で高品質のサービスを提供できるという考えのものでした。今盛んに行なわれている空港の民営化も同じ考えです。空港をショッピングモール化し、物販で収益を拡大しようとするものです。しかし、水道の場合は、違います。水道は、人口減少により、供給先が減少し、浄水や給水設備の維持・更新が出来なくなるとともに、収支的にも成り立たなくなることが確実な状況です。こういう状態で民営化しても、成り立つ訳がありません。民営と公営の差と言えば、賃金コストくらいのものです。民営の場合、利益が出なければ社員には賞与もない、退職金もない状態となります。一方公営の場合は、運営に携わるのは公務員であり、赤字でも賞与は他の公務員と同じだし、退職金も規定額が支給されます。この部分では民営化の方が低コストとなるのは明らかです。運営技術については、公営でも最新の運営技術を導入すれば差はでないと思われます。
こういう中で、民営化するメリットとしては、水道代の値上げが容易になることです。公営だと、水道代を上げるとなると、議会の承認が必要だし、首長の去就にも影響が及びます。それに対して、民営では、値上げは企業と住民の契約の問題であり、値上げした水道料金が嫌なら契約しなければよい、と言うことになります。そして、契約者数が少なくなり、経営が成り立たないとなれば、水道会社は破産し、水道は供給停止ということになりますので、結局水道料金は、水道会社の言いなりに値上げするしかなくなります。
このように、水道事業では、公営で採算がとれないから民営化するということはありえないのです。もし、民営化するのなら、公営でも成り立つ状態にして、更に安価で高品質のサービスを提供するためという目的でなければなりません。水道事業を公営でも成り立たせるためにも、住宅エリアの設定が必須です。水道は居住エリアに限って供給します。エリア外には供給しません。これによって、水道設備のコストを抑えられ、水道事業が成り立つと考えられます。
居住エリア制限が不可避になる2つ目の問題は、山体崩壊や土石流などで被害が生じてもおかしくない危険な場所にある住宅が多いことです。最近地球の温暖化に伴い豪雨や台風被害が増加していますし、今後も増加することは間違いないと予想されます。山体崩壊や土石流の原因は、雨量の増加もありますが、山体の老化・劣化もあると思います。山ができて長い年月が経ち、山の木の下の土砂が流出し、脆くなっているのです。私は奈良県十津川村の山を見たとき、これを痛感しました。あそこは、標高も高いのですが、雨も多く、北海道に集団移転したほど豪雨被害にあってきています。十津川村を流れる川を見ると、重機が川の砂を浚っても濁らない程、土が流れ込んでいません。即ち、山肌の木の下の土が流れてしまい、土の層がない状態だと思われます。ここに大雨が降れば、岩の上に載った状態の木の層が滑り落ち、大規模な山林崩壊が生じます。日本各地の山がこれに近い状態になっていると思われます。従って、熊本でも、山裾や山から流れ出す川の周辺の住宅は、山体崩壊や土石流災害に会う危険が増していると考えれます。この危険予防のためにも、こういう場所にある住宅は、生活環境が整備された居住エリアに転居する必要があります。 このように、居住エリアの設定は、水道の供給および災害対策からも必要となっています。それに人口減少による生活機能の維持を考えれば、他に選択肢はないのではないでしょうか。西原村の建設型仮設団地の空き部屋は、こういう観点から活用できると考えられます。