携帯電話料金値下げ、「還元」ではなく「返還」
昨年12月の産経新聞に、以前値下げはしないと言っていたKDDIの高橋社長が、NTTドコモへの対抗上値下げは避けられない、と述べたという記事がありました。値下げ額については、NTTドコモの約4,000億円程度に対して、KDDIは既に十分値下げをしているとして、数百億円に留まると述べています。記事では、これを持って数百億円「還元」と表現していますが、正しくは「返還」です。
KDDIの2019年3月期は、1兆円を上回る営業利益が予想されています。NTTドコモはこれを上回る営業利益が、ソフトバンクは8000億程度の営業利益が予想されますので、携帯電話3社の営業利益は、3兆円を超えると予想されます。そして営業利益率は、20%を超えます。
国民の財産である電波を使った公益事業がこれだけの利益をあげることは、公益事業の性格から許されないことです。電電公社が民営化され、携帯電話事業に3社の参入が許されたのは、公益事業としての通信事業に競争原理を働かせ、料金を引き下げるためでした。しかし、これが逆の状態になったのです。2年縛り契約などで解約や乗り換えを事実上不可能にして、3社寡占の状態にして、携帯電話を家計からお金を吸い上げるパイプライン化したのです。それを主導したのが、国民の奉仕者であるべき総務省だから呆れます。また、寡占状態を防止するのを使命とする公正取引委員会は、見て見ぬ振りでした。その結果が携帯電話3社の笑いの止まらない決算を招いたのです。
公益企業の本来の姿は、その代表である電力会社の決算を見れば分かります。電力9社の2018年3月期の決算は、売上高約19兆円、営業利益約9800億円、営業利益率約5%でした。これと比較すれば、携帯電話3社が如何に儲け過ぎか分かります。そして、儲け過ぎたお金はどうしたか?ソフトバンクグループは、海外でのM&Aや投資に使いました。そして、昨年12月には、携帯電話料金の値下げ圧力が強まるのを見越して、国内携帯電話事業会社ソフトバックの株式を公開し、家計から約2兆6000億円を吸い上げましました。これで10年以上にわたる携帯電話料金の値下げ分を確保したことになります。ソフトバンクグループの資金源は、間違いなく日本の家計です。
このような携帯電話事業の羨ましい収益状況を見て、公益企業として利益追求を控えていた電力会社が利益追求の姿勢を見せ始めました。そのため、携帯電話3社の高収益の仕組みである2年縛り契約を導入し始めています。もし、電力会社が営業利益20%を目指せば、家計から更に10兆円以上吸い上げられることになります。同じ公益企業であるガスや鉄道会社も続きますので、公益料金の支払いで家計はスッカラカンになるのではないでしょうか。このように、携帯電話料金の値下げ問題は、公益企業の利益水準をどこに置くかの問題でもあるのです。
ここではっきりしていることは、携帯電話3社の約20%に達する営業利益率は認められないということであり、電力並みの営業利益率約5%まで落とす必要があります。そのためには、2018年3月期の13兆円の売上高を約8兆にまで、約5兆円(約38%)減らす必要がります。菅官房長官が言っている「4割値下げ」の金額は、この5兆円です。従って、NTTドコモの約4000億円やKDDIの数百億円というのは、全く子供だましの金額です。 これまでに携帯電話3社は、公益事業の使命に背き、家計から10兆円以上収奪しています。携帯電話料金の値下げは、「還元」ではなく、これまで取り過ぎた料金の「返還」なのです。