ゴーン事件、無罪を勝ち取るならあの弁護士では
1月11日、ゴーン容疑者が有価証券報告書虚偽記載(金融商品取引法違反)と特別背任罪(会社法違反)で追加起訴され、今後は裁判の場で争われることになります。
さて裁判ですが、私は、ゴン容疑者は2つの容疑とも無罪判決を勝ち取れる可能性は高いと思います。有価証券報告書虚偽記載については、記載された金額はゴーン容疑者が実際に受け取った金額であり、東京地検特捜部(以下特捜部)が記載すべきだったと考える金額との差額は、未だ受け取りが確定したとは言えない金額です。特捜部は、ゴーン容疑者はこの金額を将来自分が退任した後にコンサル契約などの名目で受領しようとしていたと言いますが、これはあくまで目論見であり、確定したものとは言えません。契約があったとしても、契約は当事者が共にゴーンとなる自己契約、或いは会社と取締役間の契約であり、取締役会の承認が必要です。取締役会で承認されていたという報道はありませんから、法律的には確定していないことになります。従って、これらの契約書に基づいた報酬を確定報酬とすることはできないと考えられます。また、ゴーン容疑者が日産会長を退任し、新しい会長がルノーから就任したら、解消される可能性もありますし、日産の業績が悪化したら、この契約は続けられなくなります。
それに、この問題は、ゴーン容疑者が高額の報酬批判を気にして、国際的水準からしたら本来受け取ってもおかしくない報酬の半額に押さえたというものであり、これにより日産は年間約10億円得をしています。その結果、株主も債権者も得をしているのです。即ち、損害を被った人は、誰もいないのです。有価証券報告書虚偽記載の罪は、報告書の真正が保護法益であり、損害の発生は要件ではないということだと思いますが、逮捕するためには、損害の発生が必要と考えられます。
次に、特別背任罪ですが、これも成立は難しいと思います。先ず、特捜部は、約18億円の損失を負ったゴーン容疑者個人のデリバティブ取引を、個人会社から日産に移したことを以て、特別背任が成立すると言っているようです。しかし、ゴーン容疑者は、この後暫くしてこのデリバティブ取引を個人会社に戻しており、日産に損害は発生していません。ゴーン容疑者自身もデリバティブ取引を日産に移したのは、銀行から担保差し入れを求められたため、一時的に日産の信用を借りるためであり、日産に損害を負わせる意図はなかったと言っていますし、その通りの結果となっています。確かに、日産の信用を借りる行為自体も問題ではありますが、損害が発生していないことから、特別背任罪は問えないと思います。
特捜部は、日産から個人会社にデリバティブ取引を戻す際に担保が必要となり、その担保をゴーン容疑者の友人のジュファリ氏(または同氏の会社)が提供したが、その後ジュファリ氏の会社にゴーン容疑者の指示で日産から約16億円が支払われており、これは担保提供の対価や謝礼であり、特別背任罪に該当するとしているようです。しかし、そのためには、この約16億円の支払目的が担保提供の対価や謝礼であったことの証拠が必要ですが、それは示されていません。ジュファリ氏は当然否定していますから、特捜部から具体的証拠を提出することは困難ではないでしょうか。ディリバティブ取引が日産からゴーン容疑者の個人会社に戻された際にジュファリ氏が担保を提供しているから、その後ゴーン容疑者の指示で行われた日産からジュファリ氏の会社への支払いは、担保提供の対価や謝礼と合理的に推断されるという論理構成だと思われます。この挙証責任は、ゴーン容疑者に転換されることはないと思われますので、推断ではダメで、特捜部が立証すことが必要になりますが、これは困難だと考えられます。
それにこの問題は、2008年9月のリーマンショック直後に発生した問題で、ジュファリ氏の会社への支払いは、2009年6月から2012年3月までのもので、今更蒸し返すものではありません。これは、有価証券報告書虚偽記載だけで逮捕したのは行き過ぎであり、特別背任罪成立のために、特捜部で目を付けられた取引だと思われます。
このように、ゴーン容疑者は、2つの容疑とも無罪になる可能性が高いと思われます。しかし、そのためには、このような社会常識に基づいた弁護ができる弁護士が必要となります。現在、ゴーン容疑者は、ライブドア事件を手掛けた元特捜部長の大鶴基成弁護士に弁護を依頼しています。大鶴弁護士は、2005年に旧ライブドアの粉飾決算など(ライブドア事件)を摘発した責任者です。ライブドア事件は、当時有価証券法制や解釈が未確立な中で起こった事件で、違法というよりも脱法行為ないしやり過ぎを叩くという面が強かったように思えます。そこには、大鶴特捜部長(当時)の「まじめに働いている人が馬鹿を見る行き過ぎた行為に制裁を加えるのも特捜部の仕事」という使命感があったように思います。この事件は、厳格な法律適用から行くと疑問もありましたが、多くの国民が「ライブドアやり過ぎたね」と考えていたことから、批判は少なかったと思います。
それなら、今回のゴーン事件も、同じような「やり過ぎ」事件であり、ライブドア事件を手掛けた大鶴弁護士がゴーン容疑者の弁護を担当するのはおかしいのではないか、という見方も出て来ると思います。しかし、大鶴弁護士から見ると、ライブドア事件とゴーン事件は似て非なるものということになります。ゴーン事件の場合、被害者がいないのです。だれも損をしていないばかりが、関係者はむしろ得をしているのに、ゴーン容疑者が逮捕され、起訴されているのです。従って、大鶴弁護士がゴーン容疑者の弁護を引き受けるのはおかしくありません。しかし、一方では、もっとふさわしい弁護士がいるのではないかという感もあります。それは、大鶴弁護士が元特捜部長であり、特捜部の考え方ややり方を熟知しているから、特捜部の土俵での戦いになるからです。その結果、裁判は、争点が絞られ、証拠認定の戦いなると思われます。認定ですから、裁判官の心象で決まります。こうなれば特捜部の思う壺で、行き着くところは刑を軽くしての有罪判決(執行猶予付きの有罪判決)です。
本件はこういう判決を狙う事件ではなく、無罪を勝ち取る事件です。ならば、特捜部と同じ土俵で勝負しない弁護士がふさわしいことになります。そういう観点から探すと、弘中惇一郎弁護士が浮かんできます。弘中弁護士なら、この事件は社会的に見れば誰にも損害を与えていないし、ゴーン容疑者の日産への貢献を考えれば、処罰するような行為ではなく、無罪が相当という判決を引き出すと思います。