ゴーン事件、背任は日産の取締役・監査役?
日産の元会長カルロス・ゴーン容疑者は、1月11日、東京地検特捜部(以下特捜部)から2つの罪名で起訴されました。今後の焦点は裁判に移りますが、同日フランスの司法当局が日本オリンピック委員会の竹田会長を贈賄容疑で予備審理を始めていたと報道されたことから、ゴーン裁判は、竹田会長の予備審理の結論にも影響を与えることが確実視されます。
さて、ゴーン容疑者が起訴された罪名は、有価証券報告書虚偽記載罪と特別背任罪ですが、漏れ聞こえる情報に基づき判断すると、両方とも無罪になる可能性が高いと考えられます。それは、有価証券報告書虚偽記載については、記載報酬はゴーン容疑者が実際に受け取った金額を正しく表しており、記載しなかったと言う金額は、まだ確定しているとは言えない金額だからです。特捜部は、ゴーン容疑者は、将来退任した後に残りの報酬を受け取ろうとしていたと言っていますが、ゴーン容疑者と日産との間のコンサル契約などは、会社と取締役との取引となり、取締役会の承認が必要ですが、これがなされているという報道はありません。よって、コンサル契約などがあったとしても有効とは言えません。ゴーン容疑者退任後、新しく会長となった人から、解消される可能性が高いと思われます。
特別背任罪については、特捜部は2つの行為を以て、特別背任罪が成立しているとしています。1つは、ゴーン容疑者が個人的に行い約18億円の損失を抱えたデリバティブ取引を日産に移した行為です。しかし、その後ゴーン容疑者は当該デリバティブ取引を自分の個人会社に移しており、日産には何の損害も発生していません。特別背任罪には、会社に巨額の損害を与えたことが必要ですので、この行為では特別背任罪には問えません。次に特捜部は、ゴーン容疑者が日産に移したデリバティブ取引を個人の会社に移す際に、銀行から担保を求められたため、サウジアラビア在住の友人ジュファリ氏(または同氏の会社)に担保(保証)の提供を受け、その後ゴーン容疑者は日産の子会社を通じ、ジュファリ氏の会社に約16億円の支払いを行っているが、これは担保提供の対価と謝礼であり、この支払い行為が特別背任罪となるとしています。これに対して、ゴーン容疑者は、この支払いは、中東において日産関係のトラブルを解決して貰ったことおよびロビー活動の報酬であると主張しています。特捜部がこの支払いが特別背任罪になると言うのなら、この支払いが担保の提供の対価と謝礼であるとことを証明する必要がりますが、ジュファリ氏は否定しており、サウジアラビア司法当局が協力するわけもないので、立証は困難だと思われます。このゴーン容疑者が支払を指示したらお金は、ゴーン氏に使途を委ねられた予備費、いわゆる機密費的性格のものであり、犯罪組織への資金提供などでない限り、日産社内でも問題にできないものです。従って、特別背任罪に問うには、最も遠い所に位置する資金と言うことが出来ます。
これらの個別罪状に入る前に、そもそもこの事件では、日産・株主・債権者に損害は生じていません。有価証券報告書の虚偽記載では、ゴーン容疑者が高額報酬と批判されるのを気にして約半額の報酬に留めており、日産は年間約10億円、起訴された8年間で約90億円得をしています。特別背任罪では、もし特捜部に言う通り、ゴーン容疑者の支払いが担保提供の対価や謝礼だったとしても、日産の損害は約16億円であり、本来の報酬を受け取っていない約90億円と比較すると、まだ日産が約74億円得をしています。それに潰れそうな日産をここまでの高収益企業に再建したのはゴーン容疑者の貢献であることは間違いなく、その貢献と比較すると問題視するような金額ではありません。従って、起訴された2つの容疑は、そもそも取り上げるに値しなかった行為であり、裁判では無罪となると思われます。
今回のゴーン逮捕と一連の報道により、日産の信用は大きく棄損し、世界中で販売台数が下落しています。その結果、業績が大きく低下することは避けられず、このままいけば再度経営危機に直面する可能性が高いと思われます。本来今回の問題は、日産社内で解決し、世間に醜態を晒すべき問題ではありませんでした。もしゴーン容疑者に違法行為があったとしても、日産の損害は約16億円であり、ゴーン容疑者に返還させ、ゴーン容疑者を解任すれば済むことです。それを監査役と一部の取締役は、ゴーン容疑者の支配力が強く、日産社内では解決できないと見て、特捜部に支援を求めました。その結果、司法取引という新しい武器を使う絶好の機会と見た特捜部の関心を引くこととなり、この日産の社内問題は、日本国内ばかりか国際的にも注目を浴びる事件に発展しました。その結果、日産の信用は大きく下落し、日産は大変な損害を被ることとなりました。日産社内で解決すべき問題を、一度も社内で解決しようともせず、特捜部に持ち込んだ監査役および一部の取締役の行為こそ、特別背任罪に当たるのではないでしょうか。