ゴーン保釈、弁護団から裁判所への絶妙な助け舟

3月6日、カルロス・ゴーン容疑者が保釈されました。公判前整理手続きが始まっていない段階での保釈は異例であり、報道では、人質司法に対する国際的批判を気にしての決定では、という論調が多く見られます。これについては、今回のゴーン事件に対する裁判所の姿勢を見ると背景が見えてきます。東京地方裁判所は、昨年の12月20日、有価証券報告書虚偽記載容疑での検察の勾留延長申請を認めませんでした。これは日本の刑事裁判では異例のことと言われました。国際的に著名なゴーン容疑者の逮捕については、世界中から注目され、日本では容疑者の拘留期間が異常に長いと批判されています。これに対して日本の検察や政府は、司法手続きはその国固有のものであり、日本の刑事手続き法に乗っ取り適性に行われていると反論しています。しかし、裁判所としては、今回の事件の前から、検察の長期拘留に対しては批判的だったと思われます。それが昨年12月の勾留延長を認めない判断に現れたのです。しかし、これは、検察が特別背任罪容疑で新たにゴーンを逮捕したため、目に見える形では実現しませんでした。長期拘留については、以前から国内でも批判がありましたし、今回は国際的にも批判され、裁判所としては、裁判所が長期拘留を認めているという印象を払拭したかったと思われます。また、裁判所は検察の判断の追認機関との印象も払拭し、検察とは独立した存在、それも上位の存在であることを印象付けたいという思いもあったと思われます。従って、検察が長期拘留を続ける理由とする「証拠隠滅の恐れ」を防ぐ具体的対策を明示して保釈を申請すれば、保釈になる可能性は高まっていたのです。そこでゴーン容疑者の弁護団が用意したのが、今回の証拠隠滅を防ぐ各種の対策でした。住居は東京都内の特定物件、海外渡航の禁止、事件関係者との接触禁止、住居の出入り口に監視カメラを設置する、携帯電話やパソコンのメールやインタネット機能は使えないものとし、その実効性を確保するために、パスポートは弁護人が保管する、監視カメラの録画を定期的に裁判所に提出する、たぶん電話の発信・受信記録の提出なども入っていると思われます。これで形式的には、証拠隠滅は防ぐ体制が確保されていると見なせます。しかし、親族が別の携帯電話やパソコンを差し入れるとか、親族に指示して証拠隠滅工作を行うとか抜け道があるのは明らかです。

従って、保釈を認めるか認めないかは、最終的に、被疑事件を裁判所がどのように評価しているかが分かれ道になると思われます。今回裁判所が抜け道がある中で保釈を認めたということは、保釈の判断を行った裁判官は、今回のゴーン事件を刑事事件としては重大な事件だとは考えていない、或いはゴーン容疑者が有罪になる可能性が高いとは考えていないということです(国際的な関心となっている事件としては、重大な事件という認識はもちろんあります。また、冤罪事件となった場合の重大性についての認識もあります。)。

今回のゴーン容疑者の保釈は、こういう裁判所の姿勢を見て、ゴーン弁護団が裁判所が保釈を認めやすいような具体的証拠隠滅防止策を揃えて、裁判所に助け舟を出したというのが真相だと思われます。