ゴーン事件、検察に足りないのはリーガルマインド?
今回のゴーン逮捕、何で日本の検察が、それも日本の検察の中で一番優秀な人が配属されていると思っていた東京地検特捜部が、誰が見ても間違いと分かることをしたのか不思議でなりません。この見解に反発される方のために少し理由を書きます。先ず逮捕理由の1つの有価証券報告書虚偽記載ですが、検察はゴーン容疑者の報酬は約20億円であり、実際に受け取った約10億円の残りの10億円は、退任後コンサル契約などの報酬として受け取ることになっていた、と言っています。しかし、コンサル契約などが日産の取締役会で承認されていないことは、日産の2019年第三四半期決算で未確定債務として計上したと説明されていることから明らかであり、支払いが確定していたとは言えません。従って、ゴーン容疑者やケリー容疑者が主張しているように、残りの約10億円についてゴーン容疑者に支払いを受けたいという希望があったこととしても、支払いを受けられるレベルには達していなかったことになります。従って、有価証券報告書への記載義務はなく、有価証券報告書虚偽記載罪は成立しないことになります。
特別背任容疑については、これはそもそも先ず日産社内で解決すべき問題であり、ゴーン容疑者に使用権原がある予備費を、ゴーン容疑者の個人的な取引に使ったことが日産社内で確定していない段階で、検察が出て来る問題ではありません。前述の通り、ゴーン容疑者は、本来受け取るべきと考えていた報酬約20億円に対して、高過るとの批判を気にして約10億円しか受け取らなかったことにより、日産や株主は、約92億円得しています。もし、ゴーン容疑者が予備費を個人的取引に使っていたとしても、その額はゴーン容疑者が受け取らなかった報酬約92億円を下回ります。また、潰れそうな日産を立て直した功績は、遥かに大きな金額に相当します。通常会社の中で今回のような問題が生じたら、社内で調査の上、不正使用と認定されれば弁済させて終わりです。会社の損害が回復されればよいわけで、株主や債券者または一般人に損害が及ばない限り刑事事件化しません。ゴーン容疑者は弁済資力がありますから、日産とゴーン容疑者の間で解決できる問題です。もしゴーン容疑者が認めなければ、日産とゴーン容疑者の間で民事裁判で争えばよいのです。このように、特別背任容疑についても、本来民事の問題であり、民事でも事件化もしていない段階で検察が介入するのはおかしいのです。
今回のゴーン逮捕は、明らかに検察の失態です。何でこんなことが起きたかと言えば、2010年の村木厚子氏冤罪事件により特捜部の捜査が批判され、長い間特捜部は隠忍自重してきました。しかし、2018年に大阪地検特捜部が近畿財務局公文書改ざん事件を捜査したことから、隠忍自重を解除したようです。そこで東京地検特捜部は、大阪地検特捜部以上に注目を浴びる事件を手掛けたいという思いがあったと思われます。そこに現れたのが今回の事件だったのです。昨年6月から使えるようななった司法取引のメリットを存分に生かせるおいしい事件だったのです。そこで東京地検特捜部が飛び着きました。それがこの結果です。
でも何故検察のエリートがこんな単純な過ちを犯したのでしょうか。彼らは有罪に持って行く技術はあっても、法曹人としての基本であるリーガルマインドが欠落していているとしか考えられません。