ゴーン事件、出口は無罪判決ではなく免訴

3月6日、ゴーン容疑者が保釈され、これから裁判所で公判前整理手続きが始まるようです。起訴するかどうかの判断権は、検察に与えられていますから、検察が起訴したら、容疑者は裁判で無罪を勝ち取るしか道はなくなります。検察が起訴しなかったことについては、検察審査会に審査の申立をすることができますが、起訴に対しては審査の申してはできないのです。裁判になれば長い時間がかかりますから、不当な起訴の場合、容疑者の人生を台無しにすることになります。

これは、検察に対する信頼性が高ければ問題のない制度ですが、検察に対する信頼が低下している場合には、疑問が生じる制度です。現在、検察の特捜部を見ると、2010年に元厚生労働省官僚村木厚子氏冤罪事件を引き起こし、その後隠忍自重してきました。そして、昨年近畿財務局公文書改ざん事件の捜査から活動を再開したように見えます。近畿財務局公文書改ざん事件では、官邸の圧力で不起訴処分としましたが、改ざんの全貌の公表、関係者の処分を迫り、意地を見せました。この後、これに刺激を受けたのか東京地検特捜部も摘発を活発化させています。例えば、リニア新幹線工事の談合事件を摘発しました。これもおかしな摘発です。何故なら、リニア新幹線工事はJR東海が自前の費用で行うと決定していたのに、大阪まで延伸させたい政界や官邸が国の資金を無理やり投入することにしたことから、公費に関わる談合事件として摘発したものです。そもそもJR東海1社単独事業として進められてきたのですから、工事を担当する会社の割振りをどのように決めても、談合罪には問えません。そして、今回のゴーン容疑者の逮捕、起訴です。

第一の起訴事実である有価証券報告書虚偽記載罪については、検察が記載すべきとした約92億円の報酬は、日産が2019年第三四半期決算で、確定した未払い報酬と説明していないことで分かるように、未確定です。従って、有価証券報告書に記載すべき報酬に該当せず、有価証券報告書虚偽記載罪は成立していません。だからこの罪での起訴が不当なのは明らかです。

第二の起訴事実である特別背任罪については、ゴーン容疑者の個人的取引のために会社の資金を使ったという証拠が固まっていない中での起訴であり、不当です。2008年のリーマンショックによる外貨取引の損失を日産に付け替えようしたことが背任罪の構成事実の1つとされていますが、日産に損失は与えていないことから、特別背任罪に問える内容ではありません。またサウジアラビアやヨルダンの日産取引先にゴーン容疑者が支払った資金がゴーン容疑者の個人的取引に関したものだったという主張も裏付けがあるわけではなく、起訴要件を満たしていません。そもそも、民間企業における事件は、損失の回復を求めることで解決するものであり、先ずは民間企業内で解決を図るものです。ゴーン事件の場合、日産で調査の上、ゴーン容疑者が会社に損害を与えたと認定されれば、ゴーン容疑者を解任し、ゴーン容疑者に損害の補填を求めればよいことです。ゴーン容疑者には損害を補填するだけの資力はありますし、ゴーン容疑者が否認すれば民事裁判で争えばよいのです。これが行われていないのに検察が特別背任でゴーン容疑者を逮捕するのはどう見ても行き過ぎです。

今回の事件では、日産や株主は、ゴーン容疑者が高額報酬を気にして約92億円の報酬を受け取らなかったことにより、得をしているのです。検察が特別背任罪に当たると主張している取引によって生じる損害より、日産や株主が得をしている金額の方が大きいのです。また、他の日本の国民には一切損害を与えていません。加えて、潰れそうな日産を立て直したゴーン容疑者の貢献を考えれば、逮捕するという判断は出てこないと思われます。

今回の場合、日産の取締役または監査役から検察に司法取引を持ち掛けたと言われていますので、日産の取締役または監査役に法律違反を問われる事実があったことになります。それは、有価証券報告書虚偽記載罪の罪を見逃してもらうか、特別背任罪に加担したかのどちらかです。多分、有価証券報告書虚偽記載罪を見逃してもらうことから始まったものと思われます。それがどうも誤解だったことが分かり、こうなると検察と日産の取締役および監査役としては、何としてもゴーン容疑者を特別背任罪で有罪するしか無くなってきます

こんな中で起訴されたゴーン容疑者は、無実を求めて裁判を戦うしかなくなっています。検察としては、できるだけ長く裁判を行って、社会的関心が薄まるのを待ち、無実のダメージを小さくしようとするしかないでしょう。そうなると気の毒なのはゴーン容疑者です。

ゴーン裁判の場合、先ずは起訴の妥当性を審理し、起訴は妥当だったとなれば、有罪無罪を審理するのが正しい手順です。そうすれば、起訴不当で裁判は終了です。

私は、ゴーン事件の出口は、裁判での無罪判決ではなく、免訴だと思います。それがゴーン容疑者ばかりでなく、関係者のダメージを一番小さくするベストな解決法です。