「検察の、検察による、検察のための」ゴーン逮捕

4月4日、東京地検特捜部は、保釈中の日産の元会長カルロス・ゴーン容疑者を自宅で逮捕したという報道です。これで4回目になります。最初はゴーン容疑者が報酬を有価証券報告書に年間約10億円少なく記載していたという有価証券報告書虚偽記載の容疑でした。こんな形式犯で日産の再建に貢献した世界的経営者を逮捕するはずはないから、多分多額の脱税でもあるのだろと皆が予想していたところ、どうも逮捕容疑が検察の判断ミスだった可能性が高くなりました。記載していないという報酬額は、まだ貰っていないし(従って脱税はない)、支払われると確定したものではなかったからです。ゴーン容疑者は自分の報酬は年間約20億円が適当だが、20億円も貰うと日本社会で批判されると考えて約10億円に抑え、残りの約10億円は別の形式で受け取ろうと考えていたことは事実のようです。しかし、その別の形式として、コンサル契約などを結び、日産会長退任後に受け取ることを考え、ゴーン容疑者および西川社長の間では、そのような内容の契約を結んでいたという報道です。しかし、これは会社と取締役の間の利益相反取引であり、取締役会の承認を得ないと日産には効力を生じません。この承認が得られていなかった可能性が高いのです。こんな契約を取締役会が承認するわけがないし、承認していたら、承認した取締役が背任罪となります。また、日産は、2月に発表した2019年3月期第3四半期決算で、ゴーン容疑者への未払い報酬として約92億円を計上しましたが、これについて西川社長は、「まだ確定したものではないが、社内調査や検察の取り調べによって、支払うことになるかも知れないから、保守的に考えて計上した。私は、支払うことにはならないと考えている。」というようなことを述べています。これにより、ゴーン容疑者と西川社長の間で取り交わされていると言われるコンサル契約などは、取締役会で承認されておらず、確定していないことが分かります。(それにしても契約書にサインした西川社長の責任は重大です。)従って、ゴーン容疑者の有価証券報告書虚偽記載罪は成立しないことになります(法人としての日産にも成立しません。)。即ち、検察(東京地検特捜部)の判断ミスによる逮捕です。

これは東京地検特捜部にとっては、組織の存続にかかわる大問題です。こうなると、なんとしてもその他の容疑を成立させないといけなくなります。ゴーン容疑者には、会長として使途が任されているCEO予備費があり、それの使い方がおかしい、個人的用途に流用しているという特別背任罪の疑惑も日産幹部から検察に寄せられていましたから、それを成立させることが必須となりました。本来この証拠を固めてからでないと逮捕できなかったのに、有価証券報告書虚偽記載罪で別件逮捕しておいて、特別背任罪の証拠を固める目論見だったようですが、これも海外の法人が支払先であり、証拠固めは困難を極めているようです。そのような中で、海外から拘留期間の長さを批判され、同じ疑問を持っていた裁判所がゴーン容疑者の釈放を認めます。これで検察は更に追い詰められることになりました。それで出してきたのが保釈中の逮捕と言う強硬手段でした。検察は、ゴーン容疑者の自宅を捜索し、本人の携帯電話ばかりでなく、夫人の携帯電話やパスポートも押収したということですから、ゴーン容疑者や夫人が資金流用に関係していると疑われている中東の会社と連絡を取り合っている証拠を押さえて、裁判所が証拠隠滅の恐れはないとして保釈を認めたことを糾弾しようとしていると思われます。

そもそも本件では、ゴーン容疑者が本来受け取るべきと考えていた報酬(国際的にも妥当な額)を約92億円受け取らなかったことにより、日産や株主は、約92億円得をしています。それに対して、検察が特別背任罪に当たると言っている金額は、金額が大きいオマーンルートでも約5億6,000万円ですから、合計10億円にもならないと思われます(これを気にしてか、7日には、2009年からオマーンの販売会社に金利を優遇し、約81億円の損害を日産に与えたとのリーク報道がなされました。こうなるとゴーン時代の取引で生じたマイナスは、全てゴーンによる特別背任に言わんばかりです。ちょっとみっともないです。)。これから分かるように、全体的に考えれば、日産や株主は得をしており、損をしているのはゴーン容疑者1人なのです。従って、ゴーン容疑者を逮捕するような話ではなく、日産で社内調査し、流用と認定されれば、ゴーン容疑者に弁済させればよい話なのです。ゴーン容疑者が認めなければ、日産とゴーン容疑者で民事裁判で争えばよいことなのです。何も東京地検特捜部が出て来る事件ではありません。東京地検特捜部が出てきたのは、司法取引のメリットをアピールできる絶好の案件だったからです。

こうなると、今後検察のやることなすことは、只管組織防衛と自己の責任逃れのためです。それこそ、「検察の、検察による、検察のための」ゴーン逮捕です。