検察の暴走が日産の大リストラを招く

日産のカルロス・ゴーン容疑者を巡る検察の暴走が止まりません。4月4日には、保釈中のゴーン容疑者を逮捕しました。また、住居からゴーン容疑者の携帯電話や裁判資料、メモばかりでなく、一緒にいた夫人の携帯電話やパスポートまで押収したという報道です。たぶん夫人の携帯電話やパスポートは、裁判所が出した捜索押収許可令状の範囲には含まれていないでしょうから、違法に近い押収です(逮捕の際の押収には柔軟性があるということですが)。裁判では違法に押収した証拠として夫人の携帯電話から分かった情報は採用されないでしょうが、もし中東の資金流用への関与が疑われる法人または関係者と連絡をとった記録があれば、ゴーン容疑者の嫌疑を強める効果はあると思われます。また、証拠隠滅の恐れがないとして保釈を認めた裁判所へ打撃を与える効果もあります。検察は、これから拘留期間が短くなることへ強い危機感を持っているのかも知れません。

このように検察は、なりふり構わず、ゴーン容疑者を特別背任罪で有罪判決にすることに猪突猛進しています。最初の逮捕容疑の有価証券報告書虚偽記載罪は、無罪になる可能性が大きく、これで特別背任罪の容疑も無罪となると、検察制度見直しの議論となります。もちろん、東京および大阪地検特捜部は廃止です。さらに、ゴーン容疑者から巨額の国家賠償が請求されることになります。たぶん、検察史上最大の危機に直面していると思われます。

さらに問題なのが、これまでの検察の暴走により日産の大リストラが避けられなくなったことです。この2月に発表された2019年3月期第三四半期決算を見ると、第三四半期単独では、純利益が前年同期比約45%減少しています。3月の米国における販売台数も約7%減少していますので、今期の純利益は、前年期比20~30%減少するでしょう。そして来期は更に減少すると思われます。

そもそも日産には魅力的な車がありません。日本国内での販売は61万台強であり、日本の車メーカーの中で第5位です。それが、世界で548万台売り、純利益約7,500億円(以上の数字は2018年度)を挙げているのだから驚きです。これは、偏に販売力が強いということであり、ゴーン容疑者の経営力の賜物です。ゴーン容疑者はお金の使い方が上手いのだと思われます。販売にとって最も効果が上がるとところにタイムリーにお金を投入しているのでしょう。本人が直接決めることも多いでしょうし、北米や中国などの大市場には、自分の分身となる責任者を配していると思われます。今回ゴーン容疑者を司法取引により告発した日産本社の日本人取締役では、これだけの経営成績は上げられなかったのは、誰もが認めるところだと思います。長い間面従腹背していたようですので、判断力は退化しているはずです。

フランスルノーでは、スナール会長体制になって、ルノー・日産・三菱の3社体制再構築のため、ゴーン切り捨てに舵を切ったようです。4月8日の日産の臨時株主総会で、ゴーン容疑者の取締役解任とスナール会長の取締役就任を決めました(4月4日のゴーン逮捕は8日の株主総会にゴーン容疑者が出席することを危惧したためかも知れません。出席しないと言う報道もありましたが、報道はカモフラジュールと考えたのかも知れません。)そしてスナール会長の話からすると、スナール会長は日産の会長への就任を求めないし、日産との経営統合の話は今はしないということです。しかし、これは、来期日産の業績が更に悪化すれば話は変わります。そうなれば、2020年の定時株主総会では取締役の過半数をルノー側とする株主提案をする(可決される)でしょうし、更に経営統合へと進めるはずです。そうなると、北米日産と中国日産は、日産から分離されルノー直轄となり、日産は、日本と中国を除くアジアが担当となります。これまで輸出していたヨーロッパや中東、アフリカへは、ルノーのフランス工場で製造して輸出することになります。そうなると、日本国内の日産の工場は今の半分もあれば十分であり、半分以上が廃止されることになります。これに伴い部品会社の工場もリストラが必要なりますし、日産の本社・開発要員もリストラが必要になりますので、日産は大リストラに見舞われます。そしてその後、同じく日本と中国を除くアジアを主力マーケットとする三菱との合併が予想されます。

これがゴーン逮捕という検察の暴走がもたらす結果です。だからこそ、今回の検察の暴走は問題なのです。今回のゴーン事件の全貌を見れば、ゴーン容疑者が受け取らなかった報酬が約92億円であり、この分日産および株主は得をしています。もしゴーン容疑者がCEO予備費を一部流用していたとしても、一番額が大きいオマーンの販売代理店に支払った販売報奨金35億円の内、流用の疑いがあるものは約5億6,000万円とされていることから、流用額は10億円にもならないのではないでしょうか。ゴーン容疑者が受け取らなった報酬より遥かに少ないのです。(これを気にしてか、7日には、2009年からオマーンの会社へ金利を優遇し、日産に約81億円の損害を与えたとのリーク報道がなされました。こうなるとゴーン時代に日産に発生した取引上のマイナスは、全てゴーンによる特別背任の結果と言わんばかりです。ちょっとみっともないです。)ゴーン容疑者が日産の役員を退任した場合、退職慰労金は100億円では効かなかったと思われます。その他ゴーン容疑者の日産への貢献を考えれば、刑事事件にすることではなかったのです。もし日産の社内調査で不正と認定されれば、弁済を求めれば済むことだったのです。ゴーン容疑者が認めなければ、日産とゴーン容疑者が民事裁判で争えばよいことだったのです。これが刑事事件となったのは、検察の功名心以外の何物でもありません。そして、その最大の被害者は、日産の従業員です。検察は、経済事件を取り扱う際には、雇用に与える影響を熟慮する必要があります。