楽天三木谷社長の「携帯電話の民主化活動」に期待

携帯電話業界の高料金および奴隷的な契約形態による家計収奪が問題となり、現在国会で電気通信事業法改正の審議が行われています。この改正が行われれば、料金が低下し、奴隷的な契約も出来なくなると言われています。

これとは別に、今年の10月から楽天が通信回線を自社で持ち、キャリアとして通信事業に参入します。私は、当初、これによる通信料金の値下がりには懐疑的でした。何故ならば、これまでドコモ、KDDIおよびソフトバンクというキャリア3社が協調して、高い料金設定、奴隷的な契約を実施し、キャリア3社にとっては高収益、家計にとっては収奪を実現してきましたので、楽天は仲間に入るだけと思ったからです。もちろん、国から新たに通信回線保有の免許を認められるためには、10~20%の値下げはやるでしょうが、それでも3社で年間約3兆円の営業利益が2兆4000億円程度、営業利益率約20%が約15%になるだけで、尚たいへんおいしいビジネスです。楽天は、このような状態を狙っていると思っていました。

しかし、最近の楽天三木谷社長の話を聞くと、どうも違うようです。楽天は、現在MVNOとして携帯電話事業を行っていますが、MVNOは、通信回線を高い料金でキャリアから借りているため、利幅が薄く、キャリアの「奴隷みたいなもの」(三木谷社長)であり、三木谷社長には、この状態を改革したいという強い思いがあるように感じます。三木谷社長は、自ら通信回線を持つことによって、これまでより格段に安い通信回線利用料を実現し、自ら使うと共に、MVNOに貸し出すことによって、キャリア3社が高収益の基に築き上げた高コスト構造を破壊しようとしているようです。キャリア3社は、町中にたくさんの携帯販売店を置いていますが、これの維持コストは相当のものです。約1兆円くらいかかっているのではないでしょうか。店舗販売を廃業に追い込んでいるネットワーク端末の販売に、あれだけ多数の店舗があるのは異常です。実は店舗が高価な料金となるような契約を結ばせ、解約を防ぐ役割を果し、キャリア3社の高収益を支えています。パソコンでも自らセットするのが普通ですから、携帯電話も自らセットできますし、固定電話のようにシンプルな契約にできます。即ち、携帯電話販売店は必要ないはずなのです。販売店をなくせば、携帯料金は大幅に下げられます。また、毎日テレビで流される広告も、高コストの原因となっています。というより、あれは儲け過ぎと言われる利益を減らすために行っているものです。このように儲かり過ぎるために、多くの販売店を置き、大量の広告を流しているのです。これらを止めるだけで、料金は30~40%下げられます。

その他、通信設備に新しいシステムを導入しているようですが、技術的なことは良くわかりません。通信中継基地は、電力会社の送電鉄塔や電柱などに設置することから、設置が早く、コストが安くなることは確かです。また、電力会社は、管轄エリアに有力なMVNOを持っており、楽天の通信回線の顧客となると考えられます。楽天は、携帯端末を使ったショッピングやサービスの提供、仲介で稼ぐビジネスモデルなので、通信回線で稼ぐのではなく、通信回線は、コストにわずかな利益を載せた安価な料金でMVNOに提供することが予想されます。これまで携帯キャリア3社は、通信回線を家計からお金を吸い上げるポンプのホースのように使ってきました。キャリア3社の利益の元は通信回線を保有していることでした。インターネットを考えれば分かるように、インフラである通信回線は利益を生むものではありません。通信回線を使ったサービスが利益を生むのです。三木谷社長は、携帯電話の通信回線をインターネットでは当たり前の状態にしようとしているように思います。そうなると今キャリア3社から回線を借りているMVNOの多くが楽天から通信回線を借りることになります。楽天にとっては、MVNOに楽天カードや楽天ポイントを使ってもらえば、楽天経済圏が拡大しますので、十分メリットがあります。

キャリア3社のうち、ドコモとKDDIは通信回線使用料や携帯電話料金を下げてくるでしょうが、ソフトバンクは通信回線貸出には力を入れず、1人当たりの通信利用量が大きい法人などの大量通信ユーザーに顧客を絞り込んで行くことが予想されます。あくまで通信回線を所有することを生かすビジネスモデルです。それでも、今までのような利益を得ることは不可能であり、楽天の携帯電話進出により一番ダメージを受けるのは、現金収入が大幅に減少するソフトバンク・グループです。

楽天には、これまで携帯電話のキャリア3社が家計からお金を吸い上げる手段として使ってきた通信回線を、ネットで様々なサービスが受けられる安価な公共財にしてくれることを期待します。端末販売と通信料の完全分離を決めた総務省は、後発の楽天には例外としてセット割を認める方針という報道がありましたが、これに対して三木谷社長は、「携帯電話の民主化活動をテーマに掲げており、許されてもそういうことはやらない。」と述べています。男前の宣言に拍手を送りたいと思います。私は、今ガラケイを使っていますが、楽天が安価な携帯電話サービスを開始したときには、楽天のスマホにしたいと思っています。