雇用を犠牲にした日産のゴーン追放劇

日産は4月24日、2019年3月期の営業利益が3,180億円と前年同期比約45%の減益になると発表しました。今年の2月時点での見通しが4,500億円でしたので、わずか2ヶ月で約1,320億円悪化したことになります。2018年9月中間の営業利益は3,137億円でしたので、第4四半期単独では赤字に転落したことになります。特にアメリカ市場では販売台数が144万3,725台と前年比9.3%の減少しています。欧州でも14.9%減少しており、ゴーン逮捕に伴い欧米の販売体制が弱体化したことが伺えます。それもそのはずです。ゴーン容疑者が招聘し北米販売責任者などを務めたムニョスCPOは、今年1月から業務を外された末退任し、同じく世界販売戦略を担ってきたスキラッチ副社長も近々退任することを表明していますから、世界販売体制、とりわけ欧米の販売体制はガタガタになっていることが予想されます。この後は日本人役員に担わせるようですが、世界2位の販売台数を誇る企業連合を作り上げたゴーン容疑者とその側近たちの力量に敵うはずがありません。特に今回のゴーン逮捕は、日本人経営陣がゴーン容疑者など欧米経営陣を検察を使って失脚させたという日本人VS欧米人という民族紛争的側面を持ちますので、アメリカや欧州販売では今後も欧米人幹部の離脱が予想されます。従って、アメリカや欧州の販売台数の減少はこれからが本番となり、底は見通せない状況だと思われます。4月19日の日経電子版に、今期の日産の販売目標は前期比15%減の460万台との報道がありましたが、日産は即座にこの報道を否定する声明を出しています。しかし、今のアメリカや欧州での販売状況を考えるとありえない数字ではないと思われます。たぶん日産社内で検討されてた数字であると思われます。しかしこの数字が公式には発表されれば日産の信用不安を招くため、今後ともこの数字が日産から出て来ることはないと思われます。

今回の減益の原因について、ゴーン容疑者が無理な拡販政策を推進してきたひずみが出たためという分析をしていますが、これは間違いです。かって潰れかけた日産が売上高11兆円、営業利益7,000億円を超える優良企業になったのは、偏にゴーン容疑者の手腕によるものです。日産の2017年度の世界販売台数約577万台のうち日本国内の販売台数は584千台ですから、ゴーン容疑者としては、日本の国内販売には期待せず、日本人には開発と生産を任せ、世界販売は欧米人で分担しようと考えていたものと思われます。それがうまく行って、販売台数世界2位の自動車グループなっていたのに、日産の日本人経営陣は、ゴーン容疑者の資金の使い方が不明朗という日産の社内問題を検察と協力して刑事問題化し、ゴーン容疑者を失脚させるというクーデター的行動に出ました。その結果、日産の世界販売体制はガタガタとなり、それに伴い日産は大リストラに見舞われることは当初から容易に予想されたはずです。ゴーン容疑者を失脚に追い込んだ理由として、ゴーン容疑者がルノーと日産の経営統合に舵を切ったからということが言われていますが、ルノーは日産株式の43%を保有しており、ルノーが日産を統合しようと決心すればいつでも可能な状況でした。それは最近伊藤忠がデサントの株式を40%まで買い上げ、デサントの経営陣を退陣に追い込み、実質子会社化したことを見れば明白です。日産の日本人経営陣としては、経営統合後できるだけ国内工場を維持し、従業員の雇用を守ることこそ最重要だったのです。

ルノーは、スナール会長となり、強引な統合を避け、ゴーン容疑者の日産取締役解任に賛成し、スナール会長が日産会長に就任しないなどの譲歩を示してきましたが、日産の予想を上回る業績悪化を目にして、このままでは日産およびルノーが持たないと考え、強引にでも統合に突き進むことを決心したように思われます。先ずは6月の株主総会にルノー側が過半数を占める取締役選任案を提案してくることが予想されます。そして今期中に経営統合を実現する意思だと思われます。ルノーの持つ日産株式と海外の機関投資家が持つ日産株式と合わせると株主総会の承認決議を得ることは可能と思われます。遅かれ早かれ日産とルノーが経営統合されることは間違いありません。その結果、今回のゴーン追放劇の後遺症で、ルノー側の日本人に対する感情は相当悪化しており、日本国内工場の大規模なリストラは避けられないと思われます。日産の浅はかな日本人経営陣と功名心にかられた検察の暴走のせいで、多くの雇用が失われることになりそうです。