電気通信事業者法改正、目的は携帯キャリアの営業利益率を5%以下にすること

電気通信事業者法改正案が5月10日参議院で可決成立しました。この法案は別名携帯料金値下げ法案と言われるもので、携帯電話料金の引き下げを通じて携帯キャリア3社の儲け過ぎ、家計収奪を止めさせるものです。具体的には、菅官房長官が述べているように携帯キャリア3社の営業利益率を同じ公益企業である電力会社並みの5%にすることです。最近携帯キャリアが値下げプランを発表していますが、議論のすり替えとなっています。

携帯キャリア3社のうち既に2019年3月期の決算を発表した2社を見ると、ドコモは営業利益1兆136億円、営業利益率20.9%、ソフトバンクは営業利益7,149億円、営業利益率19.4%でした。KDDIも約1兆円前後の営業利益が予想されていますので、3社合わせると約2兆7,000億円程度の営業利益となります。営業利益率は20%程度です。これをトヨタや電力会社と比較すると如何に儲け過ぎであるかが分かります。トヨタは売上高30兆円、営業利益2兆4,675億円、営業利益率8.2%です。携帯電話3社の売上高は約13兆円でトヨタの半分以下ですが、営業利益ではトヨタを上回ります。それは営業利益率が約12%も高いからです。トヨタは日本一の雇用を抱えており、もの造りという仕事の大変さからこの営業利益を見ても儲け過ぎとは言う人は少ないと思います。それにこの利益の半分以上は海外で得たものです。国内で得たものは1兆円無いと思われます。一方携帯キャリア3社の利益は、国民の財産である電波の利用を認められ、通信回線を保有することに伴う不随利益です。利益の源泉は通信回線であり、免許です。携帯電話は国民の生活インフラであり、その事業は公益事業です。その料金は家計への影響が大きいことから、携帯キャリアは公益企業としてできるだけ安い料金でサービスを提供する義務があります。これはこれまでの公益企業が果たしてきた使命です。そしてその代表例である電力会社は見事にこの使命を果たして来ました。電力9社の昨年3月期の営業利益は約9,800億円、営業利益率約5%です。この数字を携帯キャリア3社の数字と比較すれば一目瞭然です。携帯キャリア3社は、携帯電話が生活インフラであることを利用して、家計からお金を吸い上げられるだけ吸い上げようとしています。通信回線を吸金ポンプとして使っているのです。

既に携帯キャリアのこの儲け過ぎ状態は長い間に渡っており、家計から吸い上げられた超過利潤(営業利益率5%を超える額)は10兆円を超えると予想されます。今後5Gサービスのための設備投資負担が大きいと言いますが、すでにこれまでの利益で確保済みなのです。

昨年8月に菅官房長官が「携帯料金は約4割下げ余地がある」と発言し、携帯キャリア3社の儲け過ぎがやっと注目されるところとなり、料金値下げの議論が始まりました。菅官房長官の発言に対して、当時の総務大臣は「民間企業の料金には口出しできない」と述べるなど、携帯キャリア3社の儲け過ぎの裏には携帯キャリアを保護する総務省の存在があるのは明確でした。従って、総務大臣の交替なしには、総務省の姿勢は変わらなかったと思われます。そして5月10日に電気通信事業者法改正案が国会で成立し、やっと携帯料金の値下げ指導が始まると思ったら、その施行はこの秋10月以降と言う報道です。それまでに十分は値下げが行われるとは考えられず、巨額のお金が家計から吸い上げられることを考えると、できるだけ早く有効な政策を打ち出すべきだと思います。報道によると総務省は今後とも2年縛り契約は認めるということですが、それでは携帯料金の値下がりが行き渡るのは2年後以降となります。また思い切り安い料金設定で参入することが考えられる楽天と契約できる人もわずかとなります。2年縛りを禁止しない限り、現在の携帯キャリア3社の儲け過ぎの構造は変わりません。

4月にドコモが最大4割値下げという新料金プランを発表しましたが、内容は偽装値下げもいいもので、工夫したのは減収にならないようにすることだけでした。そして2年縛りに加え家族縛りを強化して解約できないようにしています。ソフトバックに至っては、ドコモの値下げプランを受けて「今の契約体系でも十分安い」として微修正はあっても料金を大幅に下げることはないと述べています。即ち、値下げなんてしないよということです。携帯キャリア3社の儲け過ぎの問題は、公益企業である電力企業と比べて著しく利益が高いということであり、値下げは営業利益率5%の水準まで必要であることは明白です。電気通信事業者法改正案の施行にあたってはこの点を明確にし、10月を待たずできるところから速やかに実施すべきです。