携帯料金、議論のすり替えの4割値下げで家計負担は増加

携帯キャリア3社の2019年3月期の決算が発表されました。ドコモが売上高4兆8,408億円、営業利益1兆138億円、KDDIが売上高5兆0,803億円、営業利益1兆0,102億円、ソフトバンクが売上高3兆7,463億円、営業利益7,194億円と各社過去最高レベルでした。そして営業利益率はそれぞれ20.8%、19.8%、19.2%と日本の業界では例を見ない高さです。同じ公益企業である電力9社の昨年3月の営業利益が約9,800億円、営業利益率約5%ですから、携帯キャリア3社の利益の状況は公益企業の規範を超えていると言わざるを得ません。

昨年8月の菅官房長官の「携帯電話料金は4割下げる余地がある。」との発言を受け、携帯キャリアのうちドコモとKDDIが最大4割値下げと称して新プランを発表しました。これまでキャリア3社は新プラン発表の度に家計負担は増加してきましたので、また同じことが起きるのではと予想していたところ、やはり起きました。これは値下げを偽装して家計収奪強化を狙ったものです。ドコモは、最も容量が小さい最低料金の契約は2,980円であり、これは家族3人以上で契約すれば1,980円まで安くなるとしました。1人や2人で契約する場合と家族3人以上で契約する場合で料金がこんなに違うことは不合理です。これは最低料金対象者を少なくすることと、2年縛り契約に家族縛りを加え、他社に乗り換えられないようにすることを狙ったものです。そして、今回の新プランで最も目立つのは大容量プランのお得感を出していることです。インターネットが使い放題のギガホの料金を6,980円に設定し、これをほぼ4段階に分けたギガライトも用意し、こちらへの移行を狙っているのが分かります。ギガライトの料金設定は、月IGBまで2,980円、3GBまで3,980円、5GBまで4,980円、7GBまで5,980円となっており、料金は使った通信量に比例するように見えますが、ギガホではインターネット使い放題(30GBを超えるとスピードが遅くなる)であり、ある容量を超えると料金と通信量は関係なくなることが分かります。これは損益計算の観点から見ると、ある契約者数の下では、通信回線コストの損益分岐点となる料金を超えれば通信量は余り関係ないということです。例えば契約者数から割り出した損益分岐点料金が2,000円であれば、それを超える料金であれば通信量は考えなくてよいことになります。当たり前です。一定の能力を持つ通信回線設備を一旦作ってしまえば、契約者数と料金を掛けた金額が期間に応じた通信設備コスト(+運営費)を上回ればよいわけで、通信量の多寡は関係ありません。従って、通信会社としては料金が通信量に連動しているように見せかけて、大容量契約のお得感を出し、大容量契約に移行させれば売上(営業収入)は上がります。今回ドコモがやったのは、この作戦です。最低価格を下げたように見せかけ、その対象は3人以上の家族に限定し、下がる人たちは家族割りで他社へ乗り換えないようにして、その他の人たちには大容量プランへの移行を促しているのです。この結果、今期ドコモの営業収入は大きな減少はないか、場合によっては増加することが考えらえます。

ドコモがこのように考えて新プランを発表しても、KDDIとソフトバンクが顧客を奪うような新プランを出したら困ります。ドコモのプランは、小容量プランではKDDIの現行の最安値(月2,980円)を下回らず、大容量プランではソフトバンクの業界最安値(ウルトラモンスターギガ+の5,480円)を下回らないようにしています。他の2社に協調の姿勢を示しているのです。

これを受けたKDDIも新料金プランを発表しましたが、案の定ドコモの協調の呼びかけに呼応したものとなりました。小容量プランの最低料金を2,980円に据え置き、ドコモと同じく家族割りを導入して4割値下げしたように見せかけて、乗り換えできなくしています。まるでドコモと協議したような内容です。またドコモと同じく大容量プランのお得感を出して、大容量プランへの乗り換えを促しています。毎月7GBまで使えるフラットプラン7プラスの月料金が5,480円、ギガライトに相当するピタットプランはドコモと同じように4段階に区切り7GBで5,980円とドコモと同額になっています。その他にデータ量無制限の契約を用意し、月額8,980円の料金としています。これはソフトバンクが昨年秋に発売したウルトラギガモンスター+と競合する分野ですが、ソフトバンクの料金設定より高めであり、ソフトバンクが力を入れる分野を侵食する意図はないことを示しています。料金値下げの影響についてKDDIは、今期は殆ど無いと思うと述べ、料金値下げとは言いながら収入は減らない、即ち家計負担の減少にはならないことを認めています。

そしてソフトバンクですが、まだ新料金プランは発表していません。2019年3月決算発表の席上、記者からの値下げについての質問に対してソフトバンクの宮内社長は、「当社の料金体系は十分安いと考えている」と述べ、微修正はあっても大幅な見直しの計画はないと述べました。営業利益7,460億円、営業利益率19.4%で十分安いと言えるのでしょうか?

このように携帯キャリアの値下げは、4割値下げと謳いながら家計負担の減少にはならないものです。即ち、菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げの余地がある」の発言を逆手に取り、4割値下げを装いながら家計収奪を強化することを意図しています。菅官房長官の発言の主旨は、携帯料金による家計負担を4割減少させることです。。これはキャリヤ3社の営業収入13兆円(家計が支払う通信料金)の4割=約5兆円減少させることを意味しています。これで携帯キャリア3社は営業収入8兆円、営業利益4,000億円,営業利益率5%と電力などの公益企業と同等の利益水準となります。自民党政権に本当に家計負担を減らそうと言う気があれば簡単にできることなのですが、その気がないところを見透かされ携帯キャリア3社の偽装値下げごっこを招いています。