70歳雇用義務化で起きる2つのこと
政府は5月15日、従業員が希望すれば70歳まで働けるようにするための高年齢者雇用安定法の改正案骨子を発表したということです。発表された案では、65歳以上の従業員が働くことを希望した場合、7つの選択肢から選べるよう企業に努力を求めることになっています。選択肢のうち3つは65歳定年制の選択肢(定年の延長、同廃止、契約社員等での再雇用)と同じで、残る4つは他企業への再就職支援、フリーンスで働くための資金提供、起業支援、NPOなどへの資金提供とされています。今の段階では、多くの企業が残り4つの選択肢から選ぶでしょうから、当面実害はなさそうです。しかし、現在の65歳までの雇用義務と同じようにいずれ70歳までの雇用が義務化されると予想されています。
大企業の中には、これを先取りする動きもありますが、大部分の企業ではこれは義務化されて欲しくない制度だと思われます。最大の理由は財政的に耐えられないことですが、それとともに次の2つの困った問題が生じると考えれます。
1つは、社内老人ホーム的な部署ができることです。だれでも分かるように気力体力とも仕事に耐えられるのは65歳までです。60歳を超えると何らかの薬を服用している人も増えてきます。中には気力体力とも充実し、企業から雇用を延長したいと望む従業員もいると思います。しかし、大部分がこれ以上は雇用を延長したくない従業員です。これに対して全員の雇用を義務付けられるとこれら従業員専用の部署を作らざるを得なくなります。今でさえ、60歳を超えたら閑職に就いています。それを1つの部署に集めるとなるとあたかも企業内に老人ホームを作るようなものです。財政的にゆとりのある企業はこの方式を採用し、現役の社員と隔離すると思われます。
もう1つは、孤独死ならぬ社内死のケースが出て来ることです。65歳を超えると心疾患や能疾患により突然死が増えてきます。65歳で退職し、悠々自適の生活をしていてもそうなのですから、会社内でストレスに晒されればこの割合が増えるのは当たり前です。会社の中で机の上に白い花が差された花瓶が置いてある風景が増えるはずです。これが起きると社内は暫く沈み込むでしょうし、その瞬間に居合わせた周囲の人は忘れられない瞬間になります。
もっと大きな問題としては、日本企業の競争力が落ち、世界的競争に勝てなくなることがありますが、身近に直ぐに起きることとしては、上の2つが気になります。