旧来のビジネスモデルが崩壊している
これまで業績不振の融資先企業にリストラを迫ってきた銀行が業務量削減と言う名のリストラを進めています。みずほフィナンシャルグループ(以下みずほ)が1万9,000人、三菱UFJフィナンシャルグループ(以下三菱UFJ)が10,000人超、三井住友フィナンシャルグループ(以下三井住友)が5,000人という数字が報道されています。各社とも定型的な業務を自動化する「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入などして業務量を削減し、その結果店舗数を大幅に減らす計画です。みずほが130店舗、三菱UFJが180店舗、三井住友は店舗削減とは言っていませんが430店舗を次世代型に転換すると発表しています。大体現状から店舗、人員を2割減らし、スリム化すことになる思われます。
政府・日銀一体となった金融緩和、低金利政策は、銀行の金利収入を削ぐと共に融資先を減らしています。また融資先は不動産、インフラ開発、プロジェクトファイナンスなどの巨額の資金を必要とし、回収に長期間を必要とする事業に偏ってきています。
国債を日銀が買い占めているため、国債売買益も細って来ています。また、日銀当座預金も最低義務額を超えると金利を取られる始末で、貸出プレッシャーは強まるばかりですが、貸出需要は増えていません。そこで三菱UFJ銀行や三井住友銀行は、国内がダメなら海外があると海外業務を強化しています。三菱UFJ銀行は米国に銀行子会社を持っている他、今後成長が期待されるタイやインドネシアで大手銀行を買収しました。三井住友銀行も香港やインドネシアの現地銀行への出資割合を増やしています。ただみずほは遅れているように見えます。
また、三井住友銀行や三菱UFJ銀行は、航空機リースの取り組みも強化しています。航空機リースは景気に左右されるけれど専門性が高く利益が大きいとのことです。
これらを見ると三菱UFJ銀行や三井住友銀行は商業銀行から投資銀行にシフトしているように見えます。しかし、実体はまだまだ「都市にある地方銀行」です。私が住む福岡には三菱UFJ銀行は福岡市、北九州市および久留米市の3店舗しかありません。三井住友銀行は4店舗(支店)です。しかし、名古屋に行くと三菱UFJ銀行の店舗が多数あります。福岡市における福岡銀行の店舗のようです。この光景は大阪市における三井住友銀行も同じです。東京や大阪では三菱UFJ銀行や三井住友銀行も地銀のような存在です。即ち、都市部にある地方銀行という実態が大きな割合を占めるのです。今リストラの対象となっているのはこの部分です。ほとんどの店舗は個人や中小企業の預金や決済資金の出し入れの為のものであり、この分がネットに移行していることから採算に合わなくなっているのです。横浜銀行や千葉銀行、福岡銀行などの巨大な地方銀行ではそれほどリストラを進めていませんので、都市銀行は先見の明があるのかもしれません。
最近証券界のガリバー野村證券が2019年3月期決算で1,004億円の損失を出し、国内店舗 2割の削減を発表しました。国内リテール営業で盤石の体制を築き上げた会社なので、そのたたき上げである永井CEOはまた国内営業で取り返すものと思っていたら、先日のある記事で「我々は潰れる恐怖と戦っている」と述べており、今後の見通しは厳しいことが伺われます。また5月25日にはJTBが151億円の赤字決算を発表しました。業過のトップ企業に明らかに変調が起きています。世の中の仕組みが大きく変わり、従来のシステムが作り直しの時期に来ていることが伺われます。
これらの企業は貯えとしっかりした顧客基盤があることから、リストラ後はまた優良企業として蘇るでしょうが、成長性のない業界、特に地方では同じような立場の企業がたくさんあると思われます。これらの企業の再生には取引銀行の相当の出血を伴うと思われ、収益が細った地方銀行に打撃を与えそうです。