ルノー・FCA統合問題、フランス政府の対応は正解
5月下旬に突然登場したルノーとFCAの統合問題は、6月6日FCAが統合提案を撤回し、破談となりました。その理由についてFCAは、フランス政府が日産の合意を取ることを条件としたからと言っています。6月5日のルノー取締役会の席上、参加した日産指名の取締役2名が統合採決への棄権を表明したようです。これを受け、フランス政府指名の取締役が日産の合意を得るまで採決すべきでないと述べて、採決されなかったということです。これに対してFCAは、日産の合意は前提としないと約束していたではないかと怒ったわけです。それ以外にも当初FCAが提案していた内容(本社はオランダに置く、CEOはFCAから出すなど)がフランス政府の反対で変更されたことで、FCAが意図した統合ができなくなったことが原因だと思われます。
このフランス政府の対応は真っ当であり、正解です。ルノーと日産のこれまでの関係から言っても、ルノーとFCAの統合よりもルノーと日産の統合が先なのは明白です。ルノーと日産は車台やパーツを共通化するなどもう一体化が相当進んでいます。これはルノーの日産への出資割合以上に進んでいると思われます。販売体制においても北米とアジアは日産で、欧州・アフリカ・中南米はルノーと棲み分けています。後は統合するか、スイスの医薬品メーカーロシュのように子会社にしても業績好調な間は独自性を発揮させる体制でいくかの選択しかなくなっていました。即ち、ルノーと日産が分かれるということは、両者の選択として無くなっていました。カルロス・ゴーンは、日産にある程度独立性を持たせる形で運営する方が双方のメリット(自分のメリットと言った方が正解か)になると考えていたようですが、これに反対するフランス政府が統合を迫ったため、統合に舵を切りました。それを裏切りととった日産の日本人経営陣が司法取引を使いたかった日本の検察に協力してゴーンを逮捕させ、ルノーによる日産の統合を阻止しようとしたのが今回のゴーン逮捕事件の背景です。
ゴーン逮捕は当初フランス政府のプライドを傷つけ、怒らせましたが、時間が経つと邪魔者ゴーンを早く追い出す結果となり良かったと考えるようになったようです。ベルサイユ宮殿の貸し切り費用をルノー負担にしていたとかオランダのルノー・日産統括会社において私的な費用を統括会社負担にしていたとか本来ゴーンに弁済させれば済む問題を、日産と歩調を合わせて刑事事件化しています。
これらの結果からフランス政府はルノーと日産の統合を最優先していることが分かります。そしてこれは、極めて合理的です。何故なら、ルノーと日産の販売台数953万台(ルノー388万台、日産565万台)に対し、FCAは484万台です。その割合は66:34です。即ち、ルノーと日産の統合後FCAと統合したら、ルノー・日産統合会社がFCAとの統合会社の66%を握ることができるのです。FCAの提案では、これが50:50とされ、販売台数で約100万台上回るFCAがルノーに大幅に譲歩した形となります。ルノーはこれを以てルノーに有利な提案ととり取締役会での承認を急いだものと思われますが、とんでもない考え違いです。ルノーのスナール会長はフランス政府の信頼を失くした可能性があります。
フランス政府の今回の態度は、日産ばかりでなく日本政府にもフランス政府は信頼できる話し相手かも知れないという気持ちを起こさせたと思われます。ルノー・日産統合の問題は、フランスと日本の雇用問題なのです。日産と日本政府にとっては、ルノーが日産と経営統合することにより、日本人の雇用が失われることとなるのが一番困ります。これがフランス政府と日本政府、およびルノーと日産の間で妥当な約束が出来上がれば、ルノーと日産は経営統合しても何ら問題ないと思われます。フランス人はフランス人が考えるもの、作るものが世界最高であると考え、顧客に押し付けようとするところがあります。一方日本人は自分たちの作る物にいまいち自信がなく、顧客の要望を取り入れた物を作ろうと努力します。その結果、日産の車がアメリカや中国で売れ、ルノーの車は売れないという結果になっているのです。それはルノーも分かっており、統合しても開発や製造など多くの面で日産に頼らざるを得ないと思われます。従って、統合によって日産の役割が小さくなると言うことはないと思われます。武田薬品のように9割は外国人と言うような会社にはなりません。
ルノーと日産の統合は不可避ですが、今回ルノーとFCAの統合協議でフランス政府がとった態度が両者の統合を推進することになると思われます。
尚、6月8日フランスのルメール財務大臣は、「日産との連携強化が進む(統合が実現する)のならばフランス政府のルノーへの出資割合(15%)を下げても構わない。」更に「まずは(日産とルノーの)連合の緊密化、次に(他社との)連携だ」と語り、ルノーは日産との強固な関係を築くことを優先すべきだとの考えを強調したと言う報道です。これを見るとルノー・と日産の経営統合問題は、ルノーのスナール会長の手中にはなく、フランス政府、多分マクロン大統領直轄案件となっているようです。そしてルメール財務相の発言は、日本政府へのメッセージのように思えます。マクロン大統領と安倍首相の間で何らかの話がされている可能性があります。
6月10日の新聞報道では、ルノーが日産に対して、6月の株主総会に付議される経営改革案、具体的には委員会設置会社への移行議案について、ルノーとしては棄権するとの意向を伝えてきたとのことです。ルノーのスナール会長およびボレロCEOが日産の要職に就けないことが理由のようですが、これは当然であり、むしろ遅過ぎです。本来ならルノーとしてはルノー側が多数を占める取締役選任案を株主提案すべきでした。伊藤忠がデサントの株式を3割から4割まで買い増し、経営陣の交代を実現したように、ルノーが43%の株式を持つ日産は実質的にルノーの子会社であり、経営陣はルノーが指名するものです。株主総会ではルノーの43%の株式と海外機関投資家の株式でルノーの提案は可決されます。それをルノーが日産のわがままな振る舞いを許してきたことが問題なのです。ルノーとFCA統合がフランス政府、具体的にはマクロン大統領の指示によって破談にされたことに依り、スナール会長とボレロCEOは名誉回復のため早期の経営統合実現に動くと思われます。経営統合は不可避であり、日産は国内雇用を守る作戦に変更すべきです。