官民ファンドは全損が前提
農水省所管の官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」は、今年の3月末で累積損失が92億円まで膨らんでいながら、今年度の投資額を前年度の9倍となる110億円とし、更に今後8年間で計700億円を投じる計画であり、損失拡大が懸念されるとの新聞報道がありました。2017年度末までの投資案件全体の3分の1を超える47件で減損処理に追い込まれ、投資の失敗による損失は20億円超ということです。農水省は「企業の成長後に株を売却して利益を出すファンドの特性上、当初の赤字は想定内」と言っているとのことです。
この状況を分析すると次のように言えます。
・2014年から2018年までの5年間で140件程度の投資を行っているので、件数的には活発と言える。ただし2018年度末で28億円(2017年末16億円+2018年度12億円)とすると、1件当たりの金額は2000万円程度と少ない。
・設立間もない会社への投資であれば、その会社は最初の2,3年は赤字が続くので毎年投資株式の減損処理が必要となり、ファンドの損失が膨らむという農水省の説明は正しいが、投資金額28億円とすると累積損失93億円の大部分は融資の貸倒(引当金も含む)か運営費によるものとなる。
・5年間の投資額が28億円、前年度の投資約12億円(9倍が110億円から算出)とすると、今年度の投資額110億円は不可能な金額と言える。今後8年で700億円投資すると言う計画も100%無理。
このように見てくると、このファンドは国の余った資金を費消するためのファンドということが出来ます。農水省の説明のように「企業の成長後に株を売却して利益を出す」ことは絶対に不可能です。事業がうまく行った場合でも、このファンドで投資した事業会社の株式は、民間のベンチャー企業のように株式公開で売り出して回収することは想定し難く、事業運営者に引き取ってもらうことになると思います。こういう場合、民間ベンチャーキャピタルの場合、二束三文で譲渡しており、農水省のファンドも同様になると思われます。それは事業運営者に購入資金がないことが多く、ファンドには清算期限が迫っているからです。従って、清算期限が近い投資株式は、評価額が付いていても回収できるのはわずかであり、全額損失に近いと思われます。
このように官民ファンドが投資した株式は、回収することが難しく、投資は全損前提ということになります。即ち、官民ファンドは、投資と言う名の補助金事業および農水省官僚の天下り先と言うのが実体なのです。このことは主管の農水省も予算を承認した財務省も認識しているはずです。
財務省が今後官民ファンドの監視を強化するという報道もありましたが、これは損失発生に備えた責任回避のためのアリバイ作りです。経済産業省も巨額のファンドを運営していますが、これも同じようなものです。国の予算は使い切りであり、官僚には回収するという発想はありません。また数年で交代するため責任もかかってきません。このような官民ファンドが行われるのは、余っている予算の使い切りの為です。財政ひっ迫で年金が足りないとか消費税引き上げが必要と言いながら、こんなことが行われているのですから、官僚機構の劣化は目に余るものがあります。