ゴーンを有罪にするための露骨な報酬操作

日産の2019年3月期に関する有価証券報告書には、ゴーン容疑者の役員報酬は16億5,200万円と記載されているようです。期初には25億4,400万円の支払いが予定されていたが、昨年11月の逮捕によりゴーン容疑者が非常勤となったため、それ以降の分が減額され、この金額なったとされています。そして、16億5,200万円のうち、実際に支払われたのは4億1,000万円で、残りの12億4,100万円は支払われていないとなっています。全く奇妙な報告書です。本当に期初に25億4,400万円の報酬の支払いが決まっていたのなら、実際の支払額は10億円を超えていなければなりません。それが4億1,000万円に留まるということは、ゴーン容疑者逮捕容疑となった有価証券報告書に記載のあった報酬額約10億円が期初の支払い予定額であったと考えるのが自然です。なのに期初の支払予定額を25億円4,400万円にしたのは、ゴーン逮捕の理由である有価証券報告書に虚偽の記載があったことにするためと考えられます。

法人としての日産も有価証券報告書の虚偽記載を認め、過去の有価証券報告書を訂正しているようですが、もしゴーン容疑者が訂正報告書記載の約25億円程度の報酬を受領していたならば、ゴーン容疑者は申告もしていないはずであり、国税から所得税法違反(脱税)で告発され、重加算税処分を受けているはずです。しかし、そうなっていません。ということは、ゴーン容疑者に脱税はなかったということであり、ゴーン容疑者が日産から受領した報酬は、訂正前報告書記載通り約10億円だったことになります。ゴーン容疑者は約25億円が適正と考えて、差額の約15億円については、役員退任後コンサルなどの対価として受領する契約を西川社長との間で交わしていたとのことですが、これが法人としての日産との間で有効になる、即ち日産がこの金額の支払い義務を負うためには、日産の取締役会で承認されることが必要です。しかし、日産の取締役会が承認していたとの報道はありませんし、もし承認していたとすれば賛成した取締役全員の責任問題となりますから、先ず承認することはあり得ないと考えられます。従って、ゴーン容疑者と西川社長の間の契約は、西川社長が日産の取締役会の承認を得る義務を負うことを意味し、これによりゴーン容疑者の報酬が約25億円と確定することはありません。従って、ゴーン容疑者の逮捕理由となった訂正前の有価証券報告書におけるゴーン容疑者の報酬額約10億円は正しいこととなります。ゴーン容疑者もケリー容疑者も後日支払うとの約束はあったが確定していなかったから記載しなかったと述べており、その通りなのです。

実際、日産は2019年3月期の第3四半期決算で、ゴーン容疑者に対する過去の未払い報酬約91億円と計上しましたが、その説明で西川社長は、確定ではないが支払う可能性もあるので保守的に計上した、私としては支払うことにはならないと思っている、と述べています。この通り、西川社長も確定した報酬でないことを認めているのです。確定もしていない、支払うことはない金額を、ゴーン容疑者の確定報酬として有価証券報告書に記載するのは悪質としか言いようがありません。

ここにきて司法取引によりゴーン容疑者を逮捕させた日産の取締役および監査役は、ゴーン容疑者を有罪にしないと今度は自分らが刑事上または民事上の責任を負うこととなることから、恥も外聞もなくゴーン容疑者の報酬は約25億円に確定しており、ゴーン容疑者とケリー容疑者の指示で有価証券報告書に約10億円と過少記載したというストーリーを実行しています。

最近、証券取引等監視委員会も有価証券報告書虚偽記載の課徴金として約24億円を法人としての日産に課すよう金融庁に勧告する予定との報道がありました。ゴーン逮捕は、日産の取締役および監査役と証券取引等監視委員会との協議から始まり、証券取引等監視委員会に出向している検察官から東京地検特捜部に情報が伝えられ、昨年6月から使えるようになった司法取引を活用した代表事例となると踏んだ東京地検特捜部が前のめりとなり、ゴーン逮捕となったものと思われます。しかし、東京地検特捜部は、実際は約10億円を超える報酬については支払いが確定しておらず、有価証券報告書に記載する義務は発生していなかったのを見逃していました。ゴーンという世界的経営者を逮捕してしまった以上、間違いでしたでは済みません。ここから東京地検特捜部、証券取引等監視委員会および日産の取締役および監査役は、一心同体となりゴーン逮捕の正当化に向け動き出しました。東京地検特捜部は、裁判が始まれば確定まで10年以上かかることから、その間に逮捕を主導した特捜部長や担当者は退職や移動でいなくなりますし、それを承認した東京地検検事長、東京高検検事長および検事総長も退任しており、責任が及ぶことはありません。こうしてゴーン逮捕は過去の検察の1つの業務執行行為に過ぎず、結果が無罪になっただけで終わることとなります。

こうして検察は逃げられるのですが、西川社長以下日産側でゴーン逮捕のために動いた取締役および監査役は、背任または善管注意義務違反として、株主またはゴーン容疑者およびケリー容疑者から損害賠償の民事責任を追及されることは免れません。本件は後日歴史上類を見ない人権蹂躙の悪質な刑事・経済事件として小説などに取り上げられることとなります。