かかりつけ医制度の問題点

6月25日の新聞で、厚生労働省は患者が自分のかかりつけ医を任意で登録する制度の検討を始めたとの報道がありました。狙いは、診察料を月単位の定額として過剰な医療の提供を抑えたり、かかりつけ医以外を受診する場合は負担を上乗せして大病院の利用を減らし、身近なかかりつけ医が効率的な治療や病気の早期発見にあたる仕組みを普及させ、医療費の伸びを抑制することだそうです。

厚生省のこの制度には大いに疑問があります。

先ずこれでは、診察しなくても報酬が支払われることになり、サービスの提供と対価としての報酬の支払いという社会一般の労働と報酬の概念が無くなってしまいます。この制度によれば、診察に行かなかった月も報酬が支払われることになりますし、定額報酬の範囲内の治療しか行われないことが起きます。この制度の対象となる患者は慢性疾患で定期的に受診している患者だと思われますが、この場合、定期的に薬を貰いに行くくらいであり、診察代は管理料と薬代くらいです。従って、今でも1回当たりの金額は定額に近いものです。これを定額制にするのは、患者の為ではなく、かかりつけ医、即ち個人病院の経営の安定化のためとしか考えられません。少なくとも患者にとっては何のメリットもありません。

次にかかりつけ医制度は大いに問題があります。

私は、長い間会社務めをしており、幸い健康であったことからたまに会社の診療所に行くくらいで、個人病院を受診したことは殆どありませんでした。退職後個人病院を受診するようになって、個人病院の問題点に気付きました。

具体的事例で紹介すると、ある胃腸科の看板を掲げる個人病院に健康診断に行ったときのことです。待合室で待っていると、看護師が来て「胃カメラの検査をしませんか」と言います。福岡市の健康保険組合の健康診断メニューは決まっており、胃カメラ検査はありません。そこで「いくらですか」と聞くと「6,000円です。」と言います。「今日はいいです」と断りました。そして健康診断が始まって驚いたのは、心電図測定のときでした。看護師が慣れておらず、私の心電図を見ては「あれおかしいな?リラックスして下さい。」と何度もいうのです。心電図測定は殆ど行っていないことが伺われました。また検査の結果を聞きに行ったところ、院長が「はい、問題ありません」と検査結果を渡します。私が「毎年心電図異常を指摘されているのですが」と言うと、改めて検査結果を見直し、「ああ、そうですね。まあ、問題ないでしょう」と言います。この医師は、胃腸以外は関心がなさそうでした。以後行かなくなったのは当然です。

翌年は心電図の問題もあって、循環器科の看板を掲げる個人病院に健康診断に行きました。待合室で待っていると、看護師がやって来て「X線検査をしませんか」というのです。私は「ほら来た。飲食店で1品追加させるのと同じだな」と思い、断りました。そしたら、聴診の際医師から「あれ、X線検査は?あれは重要だから受けて」と言われました。診療室では医師に立てつけず、結局受けることとなりました。確か3,000円だったと思います。

この医師からは高血圧の治療も勧められ、降圧剤を飲むことになったのですが、その際に私が「発毛剤のリアップを付けると正常血圧に下がるのですが、心電図異常があり控えている」というと、その医師は、「え、リアップは降圧効果があるの?それは知りませんでした」と言います。リアップの薬効成分であるミノキシジルは、降圧剤として発売後副作用が報告され発売中止となり、臨床試験中に発見されていた発毛効果を生かし、発毛剤に転用されたのは有名な話です。それも今ではミノキシジルの含有量を発売当初の5倍にしたものが発売されたため、薬局で買う場合、薬剤師の承認がないと買えなくなっています。このことは、循環器科で降圧剤を処方することが多い医師は知っていて当然のことであり、これを知らなかったのは驚きでした。その他降圧剤の作用機序などについても私がネットで調べた知識と違う説明があったり、開業するまでに身に付けた循環器関係の知識・技術以外の新しい知識や技術は持ち合わせていないことが伺われました。そのため、血液検査の異常値について深く聞くと「問題ないんだよ」と怒り出すこともありました。このことから、開業医は開業するまでに身に付けた専門領域以外は当てにならないことが分かりました。それに専門領域以外の検査機器がありません。

そこで思ったのは、個人病院をかかりつけ医とするためには、内科、胃腸科、循環器科の少なくとも3つの個人病院が必要だということです。例えば、内科では内視鏡検査ができるところは少なく、胃腸科に行く必要がありますし、循環器のことについては循環器科以外当てにならないと思います。また、皮膚科や眼科なども別の個人病院に行く必要があります。

こう考えると、結局総合病院が良いということになるのです。総合病院に患者が集まるのは、自己防衛上必然ということになります。もし、個人病院がかかりつけ医として信頼されるようなるためには、内科・胃腸科・循環器科などの専門個人病院がチームを組み、専門以外は速やかにチーム内の他の医院を受診させる制度にするしかないと思います。

今の健康保険制度では、開業当初の知識や技術しか持たない個人病院でも経営できるようになっており、高齢の開業医が診察を続けている例も見られます。そして、今回の厚生省の案のように、患者本位でなく個人病院の経営対策として患者を個人病院に行かせる制度が増加しているように感じます。技術の劣る個人病院は、歯科医院のように淘汰される制度にすべきだと思います。