半導体材料輸出規制は東芝メモリ、ジャパン・ディスプレイ支援のため?
日本政府は、7月4日からレジスト、エッチングガス、フッ化ポリイミドという半導体や有機ELディスプレイの製造に欠かせない材料の韓国への輸出を包括許可制から個別許可制に変える、即ち輸出規制を行うと発表しました。韓国大法院の徴用工判決により日本企業が賠償を求められることに対しての韓国側の対応に不満をもってのことと言われています。徴用工側は先ず新日鉄と韓国の合弁企業の株式を差し押さえ現金化する手続きに入っており、現金化されたら対抗措置が取られると予想されていました。なので、このタイミングでの実質的な対抗措置の発動は早かった感じがあります。やはり参議院議員選挙を意識したものかも知れません。
しかし、なぜこの3品目なのでしょうか?新聞紙上では、この3品目は韓国の最大産業である半導体製造および有機ELディスプレイ製造に欠かせないものであり、日本からの輸入が多くダメージが大きいからと言われています。日本でも建築現場で高力ボルトが不足し、建築計画が中止となる事例が出ていると言います。このように製造全体を見ればわずかな金額(日本からの輸入額は約450億円)を占めるに過ぎない材料でも、これがないと製品が完成しないものはたくさんあります。使用するメーカーはこれらの供給不足に備えて、複数の取引先から仕入れる体制を取っています。今回日本政府が輸出規制を決めた3品は、韓国メーカーの日本からの輸入割合が高いものです。レジスト91.8%、フッ化ポリアミド93.7%、エッチングガス43.9%となっています。エッチングガスについては、中国からの輸入が46.3%とトップであり、日本から輸入できなくなっても製造面では殆ど支障がないと考えられます。問題はレジストとフッ化ポリアミドです。レジストについては米国から7.4%、フッ化ポリイミドについては台湾から3.9%輸入しており、韓国メーカーも輸入の多様化を進めていたものと思われます。これからすると、半年から1年もあればこれらの国から代替輸入できる体制ができると考えれます。また、半導体の生産では日本は先行しながら韓国に抜き去られ、有機ELディスプレイの生産では韓国に先行されており、現在技術的には韓国が上を行っていると考えられます。半導体トップのサムスン電子は売上高約24兆円、営業利益約5.8兆円を誇り、ここの技術力と資金力をもってすれば、1年もあれば代替品の開発、供給体制を整えられると考えられます。今回の日本の輸出規制は、2010年に中国が日本に対して取ったレアアースの輸出規制(あるいは米国が中国のファーウェイに対して取った制裁措置)を真似たものと言われていますが、これにより日本はレアアースを使わない製品の開発が進みました。韓国でも国産化が早められ早々に日本から輸入する必要がなくなることは間違いありません。
このように今回の3品の輸出規制は、冷静に考えると一時的な効果しかなく、却って韓国の競争力を高める結果になることが分かります。このことは政府、とりわけ今回の輸出規制のアイデアを出した経済産業省も分かっていたはずです。なのに、なぜこの3品の輸出規制を発動したのか、不思議でした。そんな中でネットで京大の川北教授のブログを見て納得が行きました。川北教授はこの3品の輸出規制は日本企業支援が目的ではないかと読んでいます。この3品の輸出規制で1年くらいは韓国の半導体や有機EL生産が影響を受けると考えらます。その結果得をするのは競合する製品を製造する日本の東芝メモリやジャパンディスプレイ、JOLED、シャープなどと考えられます。東芝メモリは東芝から分離した新会社が今年4月から始動し、年内のIPOを計画していると言いますから、売上・収益の両面で追い風となります。ジャパンディスプレイは資金不足で倒産の危機に瀕しており、現在資金調達の交渉を行っていますが、これが有利に働くことが予想されます。ジャパンディスプレイには経済産業省が所管する産業革新機構が約4,000億円の資金を拠出しており、倒産ともなれば経済産業省にとって一大事です。有機ディスプレイについては、使用メーカーに韓国のメーカーからの供給のみに頼るのは危険という意識が生まれ、ジャパンディスプレイ、JOLEDやシャープが供給先として見直されてくることが予想されます。このように、3品の輸出規制の効果はせいぜい1年であっても、東芝メモリやジャパンディスプレイなどの日本の競合メーカーに与える効果は大きいものがあります。その結果、この3品を韓国に輸出していたメーカーも輸出の減少分を国内向けの増大で吸収することができると考えられます。このように考えないと今回の輸出規制の効果は余りにも一時的過ぎます。