生化学反応の解明が置き去りにされている
7月2日の朝日新聞電子版に「パーキンソン病を血液検査で診断」という見出しの記事がありました。内容は、順天堂大学病院の研究チームはパーキンソン病の患者で血液中のスペルミンという物質が大幅に少なくなり、ジアセチルスペルジミンが多くなっていることを発見した、チームは今後、スペルミンを生み出す物質を体内に摂取して症状が出るのを遅らせたり、改善したりする治療薬の開発を進める、というものです。
パーキンソン病は脳内の神経伝達物質ドーパミンが減ることで、手足の震えなどが起きて体が動かしにくくなる病気と言われています。脳内の病気だから脳内に原因があると考えられがちですが、脳内は人体で最もクリーンな環境にあることから、脳内が根本的発症原因になることは少ないと考えられます。むしろ脳外、即ち人体の他の組織の生化学反応の失調から異常物質が発生し、または必要物質が十分産生されなくなり、その影響が脳に及び、脳の機能不全、即ち脳の病気を発症すると考えられます。
私は、認知症も同じようなメカニズムで発生すると考えています。それはこういうことがあったからです。2年前私はモノが覚えられない、人の名前などが思い出せない、以前ならなんなく理解できた書物の内容が理解できないなどの症状が現れ、これでは3,4年もしたら認知症になると思いました。体もだるいし、不眠症状もあります。これらが重なって絶望的な気持ちになりました。とりあえず不眠症の症状を治すために病院で睡眠導入剤を処方してもらうことを考えました。しかし、睡眠導入剤を飲み始めると常用化することは必須であり、その前に化学物質でない睡眠によい物質を試してみることにしました。当時テレビなどで宣伝した味の素の睡眠アミノ酸グリシン(商品名グリナ)と協和発酵バイオの同じくアミノ酸のオルニチンです。共に体内にあるアミノ酸ですし、日本有数のアミノ酸メーカーが製造しているので安心と考えました。試供品を注文したところオルニチンが先に到着したので、早速にその夜飲んで寝たところ、不眠症その他の困っていた症状が治ったのです。あまりに劇的だったので、オルニチンについてネットで調べて見ると、オルニチン回路(尿素回路)という人体にとって重要な生化学システムが肝臓とミトコンドリアに跨って存在していることが分かりました。人は必ずタンパク質を摂取しますが、タンパク質はアミノ酸からできており、胃や腸で分解されるとアミノ基(NH2)が分離し、周りの水素イオン(H+)と反応し、アンモニア(NH3)ができるのです。アンモニアは毒性があるため、速やかに腸壁から吸収され肝臓に送られます。そしてオルニチン回路でオルニチンと結合し、シトルニン、アルギンなどに変化し、最後にアルギニンが尿素とオルニチンに分解され、尿素は血液中に排泄され、腎臓で濾され尿中に排出されます。こうして毒性のあるアンモニアが血液循環により体中に回るのを防いでいます。オルニチンは体内で作られるアミノ酸で、健康な人ならばアルギンの分解などで十分に供給されるようです。しかし、アルギンを分解する酵素が足りないなどでオルニチンが十分作れない人がいるようです。OTC欠損症という遺伝子病もありますし、加齢により十分作れなくなる人もいるようです。こうなると、有毒なアンモニアが体中に回り、細胞や臓器の機能を低下させます。その結果エネルギー物質ATPの産生が減って元気がなくなったり、肝臓や腎臓の機能が落ちたりするようです。特にアンモニアは脳幹を通過して脳内にも入り込み、脳の神経を傷害すると言われています。また脳ではこれを防ぐためや修復するための化学物質が増えるため、脳内の情報伝達がうまく行かなくなると考えらえます。認知症の原因物質と言われているβアミロイドも実は脳神経の傷害を保護するために作られた物質とも考えられます(仮説)。 このように認知症も体内の生化学反応の失調に伴いアンモニアが増えた結果生じると考えることができます(仮説)。そして、それは血液成分の変化として捕らえられると考えられます。オルニチンはアミノ酸ですが、他の多くのアミノ酸のように筋肉や皮膚の成分ではありません。遊離アミノ酸と言い、血液中を循環しています。血液中を循環し、異常があれば他の物質と協力して異常を解消する働きをしていると考えられます。従って、血中オルニチン量の測定ができれば、オルニチン不足によりアンモニア過多になり異常な状態にある人(未病の状態)が分かります。これは今でも血液検査で血中アンモニア量を測定すればよいのですが、アンモニア量は変化しやすく手間やコストがかかり、通常病院ではやりません。しかし、アンモニアは体が産生する最大の毒素であり、日々産生されることを考えれば、健康診断項目に加え、モニタリングするのが適切と考えられます。このように病気や体の不調は、体内の生化学反応の失調で起こり、これは血液成分の変動で知ることが出来きるはずです。現在の医学の関心は遺伝子や分子レベルの研究に移り、生化学は過去の分野とされ、研究が進んでいないように感じます。生化学反応の徹底的な解明こそ、病気の治癒および予防、快適な生活にとって重要だと思われます