ヘビに睨まれたカエル?
ソフトバンクグループ(SBG)は8月7日に2020年度第1四半期の連結決算を発表しました。純利益は前年同期の3.6倍の1兆1,217億円となり、3ヵ月間の純利益としては日本企業で最大となったといことです。これはアリババ株の売却に伴う利益を1.2兆円計上したことが要因だそうです
SBGは、2019年3月期に売上高9兆6,022億円、営業利益2兆3,539億円、純利益1兆4,546億円を上げ、世間を驚かせました。しかし、営業利益の内投資ファンドの未実現利益(評価益)が1兆132億円と43%を占めていました。公表された営業利益のうち半分近く、かつ1兆円を超える金額が評価益という決算は日本史上初めてでした。この評価益は、SBGが運営する巨額の未公開株投資ファンド(SVF)が、1回目の投資株価より高い株価で2回目以降の投資を行った結果生じたものです。即ち、SBGが自ら作り出したものということが出来ます。これは未公開株ファンド評価益の会計制度に疑問を生じさせることとなりました。
SBGは、法人税を払わないことでも有名です。これまでの決算を見ると、営業利益段階までは巨額の利益を計上しても、営業外損失や特別損失としてそれを上回る巨額の損失を計上し、結局課税所得としては損失とし、法人税の支払いを逃れてきました。2019年3月期にも税引前利益は約1兆7千億円にも関わらず、法人税はほぼ0です。これは、SBGが巨額の繰り越し損失を抱えているからです。それも一般に見る決算書上の損失ではなく税務上の損失です。SBGは、2018年度決算において2016年度に約3兆3千億円で買収した英国のアーム社の株式の一部を、SBGが運営するSVFに現物出資し、約2兆4,000億円の税務上の損失を計上したようなのです。その期の税引前利益は1兆円を超えていますが、この損失の計上によりSBGは、税務上繰越損失を抱えることとなり、税金を払う必要がなくなったのです。2016年に約3.3兆円で買収した株式の一部が2年もしない間に2.4兆円も値下がりするのもおかしいですし、事業内容に問題があって値下がりしたのであれば、そんな株式をSVFに現物出資するはずがありません。従ってこれは、業績悪化による損失ではないことになります。
今年6月頃、2018年3月期のSBGグループの税務会計において国税がアーム社の現物出資による損失計上に関して約4,000億円の損失計上を否認したという報道がなされました。これは計上時期の誤りによるもので損失計上を否定したものではなかったようで、法人税非課税に変わりはなく、追加課税などの処分はなかったということです。国税の調査は、2018年から2019年の決算近くまで続いたものと想定されます。
そして、それを受けた決算が2019年3月期決算であったことになります。国税の調査は、SBGの税金逃れとも見える取引に警鐘を鳴らす目的があったものと思われます。もちろん否認できると踏んで調査に入ったのでしょうが、立証は困難だったようです。SBGが同意しないまま国税が否認すると裁判となります。裁判となった場合、どちらのダメージが大きいか?SBGのダメージが大きいのです。それは、国税に脱税の疑いを掛けられていることが分かると、次の12兆円とも言われるファンドの資金が集まらない可能性が大きくなります。誰も脱税の疑いのある企業には出資できません。国税としても裁判で勝てるかどうかは定かでありません。そこで両者は取引をしたものと考えられます。SBGは2019年3月期決算などで現物出資により計上した損失に相当する評価益などの利益を計上し、現物出資によって発生した税務上の繰り越し損失を解消し、以後はこのような疑わしい取引はしないというものです。そう考えると、SBGが2019年3月期決算に1兆円を超える評価益を計上した理由が説明できます。
そして2020年第1四半期決算では、純利益1.1兆円を計上しました。アリババ株の売却により1.2兆円の利益を計上したということですから、現金収入を伴う利益です。現在組成中のファンドにSBGが4兆円出資するという報道もありますので、これに備えた資金作りの一環かも知れません。アーム社株式をファンドに現物出資した取引につき国税が調査に入ったことは、塀の上を走っていた怖いもの知らずの孫社長に少し恐怖を与えたようです。ゴーン日産会長(当時)の逮捕が頭をよぎったのではないでしょうか。今の孫社長の状況はヘビに睨まれたカエルの状況のように思えます。