ソフトバンクGの投資損失は日本の家計から穴埋めされる
ソフトバンクグループ(SBG)が2019年9月中間決算を発表しました。売上高は4兆6,517億円と前年同期比で横ばいでしたが、営業損益が前年同期の1兆4,207億円の黒字から156億円の赤字に転落しています。第2四半で見れば7,001億円の赤字です。これはソフトバンクビジョンファンド事業(SBG単独の投資とファンドによる投資のSBG分)が、昨年の6,324億円の黒字から5,726億円の赤字に転落したことが最大の要因と説明されています。ファンド事業の赤字がこれだけ大きくなったのは、SBG本体とファンドが共に出資していた米国のユニコーンと言われる企業WeWorkのIPOが不可能となったばかりか、倒産の危機に瀕したからです。Weworkには1株65.8ドルで1億4,800万株、約75億ドル(約8,200億円)出資していたと言います(うちSBGが子会社で45億ドル=約4,900億円)。今年1月に出資した時点のWeWorkの企業価値を470億ドル(約5兆1,000億円)と評価して出資したのが最大の間違いでした。これが直近では約78億ドル(約8,500億円)の企業価値に落ちたことから、5,726億円の損失を計上することとなったようです。
このようになる危険性は前から分かっていたことでした。それはソフトバンクが投資する基準がユニコーンという時価総額が1,000億円を超える新興企業という1点であり、巨額な赤字を出していても高い企業価値で評価し、多額の投資を行ってきたからです。日本のバブル時代に銀行が土地の評価額を引き上げて融資額を大きくして行ったのと同じです。その後銀行は、その土地の利用から上がる収益に基づいて融資するようになりましたから、投資先の企業価値についても利益に基づいて評価されるようになることは自明のことでした。SBGとその運営するビジョンファンドは、10兆円のファンド資金をWeWorkと同じような企業に投資していますから、今回の投資損失の計上はWeWorkだけに留まらず、殆どの投資先に必要となるはずです。SBGファンド事業の成功例になると予想された同じく米国のユニコーン企業Uber.Technologies(以下Uber)には、SBGとファンドで77億ドル(約8,400億円、16.3%)投資し、IPO前はSBGとファンドは1兆円の利益を得ると言われました。しかしIPO(初値1株42ドル)後Uberの株価は下がり続け、今では1株27ドル、時価総額460憶ドルとなっていますので、SBGの約8,800億円の投資は約8,100億円に目減りしています。Uberも直近の営業利益は約3,000億円の赤字であり、収益から見た評価額はもっと下落してもおかしくありません。
SBGの2019年9月中間決算は、最終的に4,216億円の黒字となっています。これは第一四半期決算においてアリババ株の売却などで、1兆1,217億円の利益を計上していたからです。
SBGはアリババ(約11兆円)、ソフトバンク(約5兆円)、スプリント(約3兆円)など株式の評価額が約26兆円(2019年8月試料)とされており、資産的には盤石と言えます。しかしこれらは株式市場の状況で大きく変化するものです。アイババは中国のインターネット企業ですが、インターネットはもう一般化しており高収益は望めなくなっています。ソフトバンクは携帯電話料金の値下げが見込まれます。スプリントはTモバイルとの合併で厄介払いできた存在です。このようにSBGの約26兆円の資産は今後縮小することが予想されます。こう言う状況でSBGはWeWorkに95憶ドル(約1兆355億円)の資金支援を行うこととなっています。これは利益を狙ったものではなく、WeWorkの破産を防ぐためのものです。中間決算での損失計上は、評価損に基づくものであり、現金が出て行くものではない(将来現金が戻ってこないということ)ので、直ぐにSBGの資金繰りに影響することはありませんが、WeWorkへの資金支援は現金が出て行くので、資金繰りに影響してきます。資金繰りで言えばSBGは昨年ソフトバンクをIPOし約2兆5,000億円の資金を獲得し、ヤフー株をソフトバンクに購入させることにより約6,000億円を得る等合計3兆1,000億円の資金を獲得しています。この中からWeWorkに約1兆円が支出されたと考えれます。そうだとすれば尚2兆1,000億円が手元にあることになりますが、問題はビジョンファンド2号です。ビジョンファンドにはSBGが2兆円以上拠出すると言われており、既に拠出されていればSBGの資金繰りはかなり窮屈になっていると思われます。近々アリババ株の追加売却は避けられないと思われます。
それでも今後SBGとビジョンファンドで共に投資した投資先について評価損の計上に留まらずIPOした株式につき売却損の計上およびIPO不能となった株式の償却損の計上が避けられなくなると思われます。そうなると14兆円とも言われる負債の返還や借り換え、利払いを考えると、資金繰りに窮する事態が考えられます。
SBGが巨額の買収や投資ファンドを作れるようになったのは、日本での携帯電話事業で巨額の資金(現金)を獲得できるようになったからです。2018年12月に携帯電話事業のソフトバンクをIPOするまで、ソフトバンクはSBGの子会社としてSBGの資金源となっていました。しかし楽天の参入など今後携帯電話事業の利益は低下すると見て、IPOして約2兆5,000億円の資金を獲得する道を選んだのです。それでもまだSBGはソフトバンクの株式の6割以上を保有し、配当で吸い上げ資金繰りに利用しています。
今後投資事業で巨額の損失を出し続けるとすると、ソフトバンクの携帯電話事業はこれを補うため一層利益を出すことが求められます。これは今後ソフトバンクが携帯料金による家計からの収奪を強化することを意味します。SBGの投資損失は日本の家計が埋めることとなります。