携帯回線使用料の透明化こそ携帯料金引き下げの肝
日本通信は15日、通話定額を含む音声通話サービスの卸価格の引き下げを求め、電気通信事業法の定めに基づき総務相に裁定を申請したと発表しました。同社は2010年にNTTドコモと音声通話サービスの卸契約(携帯回線使用契約)を結び、2014年4月から値下げ交渉をしてきたけれど、今日に至るまで価格の実質的な改定はなく、適正な原価に適正な利潤を加えた卸価格で提供することなどについて総務相の裁定を求める、ということです
日本通信は裁定が認められれば、国から直接電波の割り当てを受けている移動体通信事業者(MNO)と、MNOから回線網を借りている仮想移動体通信事業者(MVNO)との間で公正なサービス競争ができ、MNOが提供している料金よりも4割安いプランを提供できると説明しています。
日本通信の申請は、携帯回線を保有する携帯3社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)による家計搾取の原因をあぶり出すものであり、歓迎されます。携帯3社の2019年3月期の決算を見ると、売上高約13兆円、営業利益約3兆円、営業利益率約20%というべらぼうな数字になっています。同じく国民のライフラインを担う電力9社の決算、売上高約19兆円、営業利益約9,000億円、営業利益率約5%と比べて見れば、携帯3社が如何に家計から搾取しているかが分かります。昨年来菅官房長官が「携帯電話料金は4割下げる必要がある」というのはこのことから来ているのです。携帯3社が家計から収奪している金額は約13兆円であり、4割は13兆円×0.4=5兆円です。これでは携帯キャリア3社は赤字になるのではと思うかもしれませんが、そんなことはありません。営業利益3兆円は、巨額の代理店維持費用、広告費などを支出した後の利益であり、電力会社なみに合理化すれば、5兆円以上の営業利益が出てきます。これで売上高8兆円、営業利益4,000億円、営業利益5%という電力会社並みの決算となります。
携帯3社が巨額の営業利益を出せる最大の原因が携帯回線使用料です。これを高めに設定して、MVNOへ貸し出しただけでも半分は利益になる構造になっていると思われます。携帯回線に使う電波は国民の財産であり、携帯3社はこれを使う権利を貸与されているに過ぎません。従って、携帯回線を利用して家計から収奪するなどあってはいけないことです。それをやっているのが今の携帯3社です。
携帯回線は電力における送電線に相当しますが、送電線は2020年には電力会社から分離され、発電事業者が平等に使えることになります。ということは、携帯回線も同じようにする必要があるということになります。携帯キャリア3社だけが携帯回線を低コストで利用し、MVNOに回線を貸すだけで膨大な利益がでるというのでは、競争になりません。また、携帯回線使用料が携帯料金の値下げの防波堤になっていることが分かります。従って、電力の送電線のようし携帯回線部門は分離し、厳密にコストを算出し、適正な利益を上乗せした
価格で、携帯キャリア3社とMVNOが平等に使える制度にする必要があります。これにより、携帯キャリア3社とMVNOが通信サービスの質で平等に競争できるようになります。こうしてやっと本格的な競争状態が出来上がるのです。
このことは誰が考えても分かることです。これがこれまでなされず携帯3社による家計収奪が放置されてきたのは、監督官庁である総務省が携帯3社とグルだったからです。総務省は、菅官房長の携帯料金値下げ指示もサボタージュして効果が出ない政策を小出しにしています。その結果今でも携帯電話料金は殆ど下がっていませんし、携帯3社は相変わらず家計収奪を続けています。家計は携帯料金の支出が膨らむ分その他の支出を絞りますから、食品や衣料品などの消費が振るいませんし、新聞購読部数も減り続けています。10月からの消費税2%引上げの結果、来年には大幅な消費落ち込みが現れるのは間違いありません。ソフトバンクグループ(SBG)が2020年3月期の第2四半期決算で約7,000億円の赤字を出しましたが、その原因はWeWorkやUberへの巨額投資が失敗したからです。そしてSBGがそんな巨額投資が出来たのは、ソフトバンクの携帯電話事業で年間約6,000億円の余剰現金が生まれていたからです。即ち、SBGの巨額投資や海外企業のM&Aは日本の家計の資金が原資なのです。これは日本の家計の資金が海外に流れ、消えて行っていることを意味します。SBGは法人税を払わない会社としても有名なので、日本にとっては疫病神とも言えます。その疫病神を支えているのが日本の家計が支払う携帯電話料金なのです。これを断つためにも日本通信の申請は認められる必要があります。携帯3社とグルである総務省は、中途半端な裁定を出し、携帯3社を守ろうとすることが危惧されます。