キャッシュレス決済、行き着く先は手数料地獄で廃業
今年10月からの消費税引上げに伴い、中小小売店から商品をクレジットカードやスマホアプリなどを使いキャッシュレスで購入すると、5%または2%のポイントが還元される制度が導入されています。この制度の適用を受ける場合、キャッシュレス決済事業者(クレジットカード会社など)に登録する必要がありますが、11月23日現在77万店が登録しているということです。申請しているのは96万店ということですから、最終的には100万店程度の登録になるものと思われます。対象店舗は約200万店と言われていますから、約半数が登録することになります。
この制度は活発に利用され、政府がポイント還元予算として計画した3,000億円では足りず、1,500億円増額するという報道です。ではこの制度が消費税引き上げによる消費落ち込みを防いでいるかというとそうでもないようです。経済産業省が発表した10月小売販売額は、前年同月比7.1%の減で、減少幅は前回の増税直後(2014年4月)の4.3%減よりも大きくなっています。即ち、消費者は購入額は減らし、購入するものはできるだけポイント還元の対象となるキャッシュレスで買っているということです。従って、ポイント還元の狙いである消費を落ち込ませない効果は無かったことになります(ポイント還元制度が無ければもっと落ち込んだかもしれませんが)。
キャッシュレス決済でポイントを還元する制度は、現金決済からキャッシュレス決済への移行という狙いもあります。これは現金決済の場合、現金の準備や受け渡し、収支の確認などに手間暇がかかるため、キャッシュレス決済にしてこれを無くそうとするものです。確かにキャッシュレス決済だとこの手間暇は無くなり、仕事は楽になります。問題は、キャッシュレス決済のコスト、即ちお店が支払う費用です。特に加盟店手数料です。手数料が安いスマホアプリ系のキャッシュレス決済は、クレジットカードを登録して行う決済では来年6月までは手数料を2.16%としているようですが、その後手数料は3%以上に引き上げられることは確実です。一方前もって支払額をチャージしておくQRコード決済型(paypay,LINE payなど)は、2021年までは無料としていますがその後引き上げることは確実です。キャッスレス決済事業者の中で手数料を一番安くできると考えられるのが銀行系のQRコード型です。これは口座から引き落とされる為、クレジットカードを通して引き落とす場合のように信用コストが不要ですし、PayPayなどのIT系より入金コストなどが安く済むと考えられます。従って、銀行系のQR決済制度なら手数料1~2%で出来るはずで、将来は銀行系QR決済が統一されればこれが主流になると思われます。
こう考えると、キャッシュレス制度に加わらない約100万店は正しい選択であると言えます。現在キャッシュレス決済に加わっている100万店については、これまでもクレジットカードなど利用可としてきた店舗や、手数料無料の期間だけやってみようかという店舗が多いと思われます。このような店舗が考えておくべきことは、いつでも現金決済に戻れるようにしておくことです。それはキャッシュレス決済業者が現在手数料を安価としている狙いは、キャッシュレス決済に馴れさせ、現金決済には戻れなくすることにあるからです。この作戦は、これまでたくさん取られてきた作戦です。例えば、かって中小旅行会社は旅行商品を企画し自ら営業していましたが、リクルートが雑誌に掲載して受注を取ることを提案しました。この方法は掲載料のみで営業マンを抱えるコストと比べると割安であり、かつ効果が上がったことから、中小旅行会社は徐々に営業マンを無くして行きました。その結果、受注を取る方法はリクルートの雑誌に載せることしかなくなったため、リクルートは掲載料を引き上げて行きました。また、かって中小不動産会社は自社サイトに取扱い不動産物件を掲載していましたが、不動産物件専門のサイト運営会社が安い料金で物件情報を掲載できるサイトを作り、中小不動産会社から自社サイトの運営能力を奪って行きました。その後このサイト会社は掲載料を上げて行きました。たしかこのサイト会社の経営者はリクルートの元社員だったと思います。
このようにキャッシュレス決済に馴れさせ、現金決済を行う体制と能力を奪うことが今の安価な手数料の狙いです。そして狙い通り、現金決済に戻れなくしたら、手数料をどんどん引き上げて行きます。最終的に多くの店舗が手数料地獄に陥り、廃業に追い込まれます。今のキャッシュレス決済キャンペーンの勝者は、キャッシュレス決済を導入せず現金商売を続けた店舗となります。