ゴーン出国、救われた特捜部、墓穴を掘ったゴーン

12月31日、日産元会長で2018年11月に東京地検特捜部(以下特捜部)に逮捕されたゴーン氏(以下ゴーン)が保釈中日本を出国し、中東のレバノンに到着したという報道が飛び込んできました。私はゴーン逮捕以来、これは特捜部の暴走であり、ゴーン逮捕は間違い、早期に釈放すべきと主張してきました。理由は、逮捕理由である報酬を有価証券報告書に過少に記載したという有価証券報告書虚偽記載罪(金融商品取引法違反)が成立しないからです。何故ならば、有価証券報告書に記載すべきは実際に受け取った報酬であり、未確定の報酬は含まれないからです。検察は、ゴーンは受け取った報酬以外に将来約91億円の報酬を受け取る約束をしており、この金額を有価証券報告書に記載しなかったことが虚偽記載罪となると言っています。しかし、約91億円の報酬は、ゴーンと当時の西川社長との間で締結したコンサル契約などに基づくものと言われており、この契約は日産の取締役会が承認したものではないため、日産は支払い義務を負っていません。西川社長が日産取締役会の承認を取る義務を負っているだけです。従って、この報酬は確定したものではなく、有価証券報告書に記載すべきものではありません。特別背任の容疑は、有価証券報告書虚偽記載罪が成立しないことを知った特捜部が過ちを繕うために追加した容疑です。指摘されるような問題は、先ずは日産社内で確定し、ゴーンと日産の間で解決を図り、解決しない場合に日産から刑事告訴すべき事案です。いきなり特捜部が出て来て逮捕する事案ではありません。

従って、起訴せず釈放すべきと考えて来ましたが、特捜部は起訴しました。起訴されると長期の裁判となり、そこで無罪判決を得ても失われた時間は取り戻せません。そこで起訴された後裁判を受けなくて済む道はないかと考えました。いわゆる免訴です。これは通常あり得ないのですが、当時1つだけ道があったのです。それは天皇就任に伴って実施されると言われていた恩赦です。恩赦では免訴も可能だったのです。ゴーン逮捕は間違いであることは通常の判断力がある人ならが誰だって分かることであり、私は政府関係者は日仏関係も考えて恩赦にゴーン免訴を入れて来るのではと考えていました。しかし恩赦制度そのものに批判がある中で、これは難しかったようです。

そこでこのまま長い裁判になるしかないのかなと考えていたところに飛び込んできたのがゴーン出国のニュースでした。そこで私は、これは日本政府とフランス政府が外交交渉で決着した結果ではないかと考えました。なんとなくそんな気もしますが、真相は分かりません。

ここではっきりしていることは、ゴーン出国によって今後裁判では窮地に追い込まれることが予想された特捜部(検察)は救われたということです。検察首脳および検察官の中で、ゴーンは有罪と思っている人は少ないと思います。多くの検察関係者は何と言うことをしてしまったんだという気持ちだと思います。今後裁判が始まり検察敗訴(ゴーン無罪)となれば、特捜部解体、検察組織見直しの動きになるのは確実です。それがゴーン出国により、裁判は行えなくなり、検察敗訴はなくなります。一方ゴーンは不法出国(出入国管理法違反)で明確な犯罪人となりました。ゴーンは今後特捜部の逮捕の不当性を国際世論に訴えるでしょうが、明確な犯罪人が何を言おうとそれに耳を傾ける人は僅かです。即ち、ゴーンの出国により、特捜部のゴーン逮捕の過ちよりゴーンの不法出国の過ちが全面に出ることとなったのです。これにより特捜部(検察)の過ちは雲散霧消することとなり、特捜部(検察)は救われることとなります。

一方ゴーンは、レバノンに居る限り自由が確保されるでしょうが、これから茨の道が待っていると思われます。ゴーンは現在のレバノン大統領と近い関係と言われており、政権が変わると立場が逆転する可能性があります。またフランス政府もフランスに入国すれば日本に引き渡さないと言いていますが、フランス検察はゴーンがルノー時代に会社の資金を不正に使った容疑で捜査しており、フランスも安住の地にはなりえません。特にゴーンはフランスの高い税金を逃れるためオランダに納税していたと言われており、これがフランス政府のゴーンの取扱いに悪影響を与えると考えられます。ゴーンの出身地であるブラジルに逃げれば自由が確保される可能性はあります。それ以外の国に行けば国際刑事機構による指名手配(日本における不法出国者)が機能し逮捕される可能性があります。このようにゴーンは日本出国により極めて危険な状態になったと思われます。ゴーンにとって最善の選択は、日本において特捜部の不当性を訴え、無罪を勝ち取ることだったのです。ゴーンにとっては起訴されれば有罪率99%という日本の刑事裁判で無罪になることは絶望的だったのでしょうが、本件は有罪にする方が難しかったと思われます。少なくとも有価証券報告書虚偽記載罪は100%無罪で、特別背任も成立する可能性は低いですが、万が一有罪になっても、日産再建への功績が考慮され執行猶予が付いたと思われます。こっちの方がゴーンは日本の遅れた刑事司法の犠牲者として名誉ある地位を保てたと思われます。