IRって産業?技術立国の放棄では?

私は長い間、IRと言えばInvestor Relations(投資家広報)だとばかり思っていましたが、最近はIntegrated Resort(統合型リゾート)のことで、カジノのほかホテルや劇場、国際会議場や展示会場、ショッピングモールなどが集まった複合的な施設のことだそうです。今盛んに言われているIRの促進とは、日本にも米国のラスベガスのような街を作ろうということだと思います。

IRはやるほうの企業には魅力がるようで、国会議員にお金を渡してでも参入したいようです。2019年12月には、IR参入の口利きを請け負ったとして国会議員が逮捕され、同じ贈賄側からお金が渡った国会議員が芋ずる式に明らかになっています。IRは国会議員にとっても自分の利用価値を上げるテーマであるようです。

IRについては、自治体も誘致に積極的なところが多いようです。大阪はさもありなんと言う感じですが、横浜のようなどちらかと言うとカジノは似合わない印象がある町まで誘致に乗り出しています。今後工場や事業所などの雇用の場や税収源の進出が期待できないことから、町のイメージは悪化することを覚悟してもIRを誘致したいようです。

IRの中心はカジノですが、カジノと言えば一般的にはやくざやマフィアの親分、大金持ちが大金を架けて、更にお金を増やそうとする所というイメージがあります。私も1度ラスベガスに行ったことがありますが、私がやったのはスロットルマシンで(7が3つ並べばコインが沢山出る)、パチンコと変わらいという印象しかありませんでした。従って、私の中ではカジノは巨大なゲームセンターという印象しかありません。それで、私はIRに反対でもないのですが、促進の背景に疑念を持っています。それは、IR促進の背景に、日本が豊かになる、或いは所得を減らさないためには、海外から観光客を増やすことしかなく、今以上に増やすためにはIRが必要と言う発想に立っている気がするからです。

私は、日本は海外からの観光促進では豊かになれないと思っています。世界を見渡しても観光業で豊かな国はありません。世界的に国民所得が高いスイスは、観光業でも有名ですが、高所得の原因は医薬品や化学品、精密機械などの高付加価値の製造業にあります。ヨーロッパで豊かであるドイツやオランダなどもその源泉は製造業です。フランスやイギリスも製造業が基本になり、それを観光業や農業が支える構造です。アメリカもしかりです。

シンガポールやルクセンブルクなどの小国では、所得税など税金を安くし、高額所得者の居住を増やし、その消費するお金で国全体を豊かにするという政策が成り立ちますが、人口が5,000万人をこえるような国では、これは不可能です。やはり、世界に輸出できる製造業が無ければ国民全体を豊かにすることはできません。日本のこれまでの歴史を振り返れば、このことは歴然としています。日本が明治以降豊かになったのは加工貿易が盛んになったためであり、良いものを安く作り、大量に輸出し、外貨を獲得できたからです。これが変わったのは、1985年のプラザ合意により、実力以上に円が切り上げられ、安価だけが取り柄だった輸出品の価格が上昇し、製造業が壊滅的打撃を受けたからでした。製造業が高付加価値製品にシフトする前に円高のダメージを受け、そこから立ち直れなかったのです。その後円安により一時回復しますが、今度はそれまでに貯め込んだお金が不動産に流れ、不動産バブルを生みました。これが崩壊し、輸出によりため込んだお金が消えてしまいました。その結果、またプラザ合意後の状態に戻ったようでした。結局日本は、プラザ合意後の状態のままなのではないかと思われます。ここから日本が再び豊かになるためには、プラザ合意以前の様に輸出を増やし外貨を稼ぐ体制を作らないといけません。その為に必要なことは、新しい製品を考え出す、作り出す能力の嵩上げです。それは教育において個々の国民の才能を伸ばすことからしか生まれません。これには時間がかかることですが、これなしには日本から魅力的な製品は生まれないし、日本の企業を先端企業として経営できる人材も育ちません。

今のIR促進は、この地道な努力を避け、技術立国目標を放棄した結果としか思えません。これでは日本が世界でも豊かな国になることは決してありません。