トルシエ・ハリル・ゴーンで分かったフランス人
日本で活躍したフランス人を3人上げるとすれば、2002年のサッカーワールドカップ日韓大会の代表監督を務めたフィリップ・トルシエ(以下トルシエ)、同じく2018年ロシア大会の直前まで監督を務めたバイッド・ハリルホジッチ(以下ハリル)、そして日産元会長で2018年11月に逮捕され、2019年12月末にレバノンに逃亡したカルロス・ゴーン(以下ゴーン)です。
3人とも仕事に熱心であり、結果を出しています。トルシエは地元開催のワールドカップで決勝リーグに導きました。ハリルはロシア大会への参加権を勝ち取りました。そしてゴーンは1999年、倒産の危機に瀕した日産社長に就任し、業績を劇的に回復させました。
この3人には共通点があります。それは、(ⅰ)仕事熱心であること、(ⅱ)自己主張が強いこと、(ⅲ)摩擦を恐れないこと、です。その結果、仕事では成果を出しましたが、彼らが率いた組織では好かれていなかった、むしろ嫌われていたと言えます。トルシエは、選手個人を激しく攻撃し、反発心を引き起こさせ、それで個人のエネルギーを引き出す方法を多用しました。その結果、トルシエと選手の間は一触即発の状態も少なくなかったようです。ハリルは、自分の主張は絶対で、選手には絶対服従を求めました。その結果、選手はハリルの顔色を窺い、個々の選手が持つ創造性が発揮されなかったように思われます。それが多くの選手の不満に繋がり、本大会2ヶ月前に解任されることとなりました。
そしてゴーンについては、よく知られている通りです。日産に資本参加した際の再建計画に基づき大幅なリストラを実施したのは、日本人にはできない実行力でしたし、その後販売台数を伸ばしていますから、攻めにも手腕があったことになります。ゴーンは日本での自分に対する評価や待遇に満足していたと思われます。ゴーンはルノーから派遣された立場であり、ルノーのトップではありませんでしたが、日産のトップで居られれば強いてルノーのトップになろうという気はなかったと思われます。しかし、そんなに望んでいなかったルノーのトップになり、大統領となったマクロンがルノーによる日産の合併を求めたため、ゴーンはこれを飲まざるを得なくなりました。それを察知した日産の日本人役員らはこれを阻止すべく、ゴーンが日産で行っていた不正行為を検察に密告し、ゴーンを逮捕させました。直接の逮捕容疑となったのは有価証券報告書に報酬額を過少に記載したこと(金融商品取引法違反)と個人的資産運用の損失を日産に付け替えようとしたこと(特別背任)ですが、いずれも日産や株主、投資家に損害は発生していないことから、取締役の忠実義務違反として解任は妥当だとしても、刑事事件として逮捕するような事件ではありませんでした。従って裁判では十分無罪の可能性もありましたが、ゴーンは検察が起訴したら有罪率99%という事実に絶望して、レバノンに逃亡しました。トルシエは、「日本人は赤信号なら車が走っていなくても渡らない。」と言って、狡猾さの不足を得点できない理由としました。ゴーンは、「日本人は長い時間かけて計画を立てないと動けない。」と言って、日本人の臨機応変な対応力の無さを脱出成功の理由に挙げました。
この3人から分かることは、フランスでは自己主張が強く、狡猾でないと成功しない、というより生きて行けないのではないか、ということです。フランスは移民の国であり、ハリルもゴーンも元は異国人です。こういう社会では摩擦が生じても自己主張しないとお互いに分かり合えないし、かつ狡猾でないと成功しないということだと思われます。一方日本は、異国人が少ない同質社会であり、自己主張を押さえることに依って社会の摩擦を少なくし、誠実であることが社会で成功する要因とされています。その結果、確かに摩擦は少なく、狡猾な人間も少ないですが、一方その分個性は抑圧され、社会の進歩は緩やかとなっています。日本に来たフランス人としてはここに苛立たしさを感じるでしょうし、日本人としてはこんなフランス人はストレス以外の何物でもないと思います。その結果、この3人のフランス人は、日本ではその自己主張と狡猾さにより王様となり、本人は日本を相当気に入っていたと思われますが、その実嫌われており、日本社会からは追い出される形で日本を去りました。このような日本人とフランス人は、世界中でも共生が難しい国民のような気がします。サルコジ元フランス大統領は大の日本嫌いでしたし、現在のマクロン大統領もなかなか来日しなかったことから見て日本嫌いのようです。フランスはアジアでは同じく自己主張の強い中国と相性が合うと思います。そう考えると、日産とルノーの運命も見えてきます。