70歳雇用制は雇用を悪化させる愚策
政府は企業に70歳まで雇用させれば社会が安定すると考えているようですが、それは逆です。雇用が不安定化し、社会も不安定になります。これは考えて見れば分かることです。例えば売上高100億円の企業があったとします。営業利益10億円で、人件費に売上高の30%、30億円かけているとします。もちろん売上高が増えれば人件費は増やせますが、人口減少の世の中で売上増加は期待できません。むしろ売上が減少することが予想されます。そこでは人件費に30億円以上はかけられません。70歳までの雇用義務を負わされるとなると、65歳から70歳までの社員の人件費が増加することになりますから、他の社員の人件費を削るか、社員の総数を減らすしかなくなります。仕事量自体は減りませんから、社員の総数は減らせず、かつ65歳から70歳の社員には、それ以下の社員がしている仕事をそのまま割り当てられないので、下手をすれば社員の総数は増えることになりかねません。そうなると人件費の枠がオーバーしてしまうので、他の年齢層の人件費を減らすことになります。一番狙われるのは、40歳、50歳代の人件費です。現在役職定年は大体55歳になっていますが、これを50歳に繰り上げることが考えられます。そうなると、50歳で役職給が無くなるので、50歳以降の給与はそれまでの6割程度になります。これで65歳から70歳までの社員の人件費を50歳までの4割以下にすれば、30億円の枠内に収めることができます。これが一番易しい対処方法です。あるいは、正社員を減らして非正規社員に置き換えることも考えられますが、今後同一労働同一賃金制が進むことが考えられますので、これまでのようには人件費は落ちないと考えられます。
70歳雇用でもう一つ困ることは、60歳以上の社員でも配置場所がないのに、65歳から70歳の社員となると、正直会社に来られるのが一番困る状態になると言うことです。65歳から70歳の社員が増えると、会社の志気は確実に下がります。そこで会社の志気を維持したい企業は、雇用延長の対象となる社員を早めに減らしてくると考えられます。若者は新陳代謝のために必要なので減らさず、40代、50代になった社員を減らしてくると考えられます。この境目は、会社の幹部になる社員とならない社員が分かれる45歳と考えられます。従って、幹部とならない45歳以上の社員を対象とした希望退職募集が多くなると考えらえます。昨年来黒字企業が行っている希望退職の募集がこの例に該当すると思われます。
このように70歳雇用制度は、正社員を減らし、とりわけ40歳代、50歳代の正社員を減らすことになります。40歳代、50歳代と言えば、子供の学費が最もかかる時期であり、ここで収入の道が絶たれるということは、これまでの人生計画が根本から覆されることになります。
この他企業としては、一旦正社員とすれば70歳までの雇用義務を負うことから、正社員を減らし、非正規社員を増やしてくることも考えられます。そうなると、今以上に非正規社員が増加し、雇用が不安定化します。中には日本での事業所を海外に移転するところも出てくると考えられます。当然海外の企業はこんな日本に事業所を置こうとはしません。このように70歳雇用制は、国内事業所の減少をもたらすと考えられます。
従って、70歳雇用制は、正規社員の減少と非正規社員の増加、日本国内の事業所の減少をもたらし、雇用を悪化させると考えられます。
70歳雇用制は、年金財源問題から発しており、そもそも企業にこの問題の解決を押し付けようとすることに無理があると考えられます。企業に年金拠出額の増加を求めるのなら未だ理解できますが、適切な仕事がないのに70歳まで雇用しろというのは無理があります。これが実施されれば世界において日本企業の競争力が落ち、結局雇用の場の減少に繋がります。日本で70歳雇用制に対処できるのは、公務員とそのコストを転嫁できる生命保険、損害保険、電力、ガス、携帯電話などの公共企業に限られると思われます。