70歳雇用制で日本から国際企業が消える
政府は企業に70歳まで雇用させる政策を進める方針のようです。これに対して、経団連を始めとした経営者団体や個々の経営者が反対の声を上げないのが不思議です。70歳雇用制は、企業に新たな負担を強いることになって、企業経営に重大な影響を与えることは明らかです。
世界を見渡しても企業に70歳までの雇用義務を課している国はないのではないでしょうか?米国は課していませんし、欧州にも課している国はないと思います。ヤフーに掲載された記事よると、フランスでもし70歳までの雇用延長を言い出したら、労働者が70歳まで働かせるつもりかとストライキに訴えるだろうということです。共同通信の調査によると、日本では70歳まで働きたいと言う人の割合が60歳代の54%ということでしたが、フランスでは殆どいないということです。人生は楽しむものであり、苦痛を伴う労働を70歳まで延長するのを拒絶するフランス人の意識が真っ当のような気がします。
そもそも70歳までの雇用義務を企業に課した場合に、企業は存続できるのでしょうか?存続できないような企業はやらなくてもいいという甘い法律になりそうな気がしますが、国際的企業はきっちりと義務を課されることになると思われます。国際的企業は、本社や事業所をどこに置くかを税制や雇用に関する法制で決めてきます。例えば、日産の場合、販売台数の割合は日本が約10%であり、中国や米国が約30%を占めますから、本社は中国や米国がふさわしく、日本にあるのが不思議なくらいです。こういう企業の本社の海外移転を阻止するため、日本は法人税率を下げてきました。1988年の40%から2018年に23.2%まで引下げています。法人に課される税は、国税である法人税の他地方税である地方法人税、法人住民税、法人事業税があり、これらを合わせた実効税率は、2014年度の34.62%からは2017年には29.74%と30%を切る水準まで引き下げられています。これはドイツ29.83%、米国27.98%並みの水準です。
ここまで企業の負担を軽減して国際企業の日本への立地や投資を促しているのに、70歳までの雇用義務を課したら、意味が無くなってしまいます。この義務が課されるのなら、同じような法人税率である米国に本社を移す日本企業が続出してもおかしくないと思います。トヨタだって米国の販売台数が国内を上回りますから、いずれ本社を米国に移す決断をしてもおかしくありません。
また、国際企業の場合、世界中で競争を繰り広げており、雇用条件も世界基準の条件となっています。日本以外の国で65歳雇用制となっている、または終身雇用でない中で、日本だけで70歳雇用制を採る訳には行きません。そうなると、本社は国際的に最も合理的な雇用制度を採用している国に置こうということになります。
このように雇用制度は、どこに本社を置くか、事業所を置くかの決定に重要な意味を持っています。
お隣の韓国では、実質的退職年齢は50歳を切っていると言われています。入社しても厳しい競争に晒され、50歳前に淘汰されるということです。だからこそサムソンのような世界的企業(2018年度/売上高24兆円、営業利益5兆8,000億円)が成立し得るのだと思われます。日本は企業に70歳雇用制を課してこんな韓国の企業と競争できると言うのでしょうか?100%負けます。そして日本は1人当たりGDPでも韓国に抜かれるのは間違いありません。こうなると韓国人に見下され、日本人は恥ずかしい思いをすることになります。
このように70歳雇用制は、間違いなく日本企業をダメにし、ひいては雇用を減らし、日本を貧しくします。