国立文系、文理二刀流が進むべき方向

国立文系の学生は悩ましい立場です。と言うのは、文系だけの能力では私立文系に適いません。これには異論もあると思いますが、国立が5教科7科目型の入試が主流なのに対し、私立が3教科3科目型の入試を行っている帰結です。5教科7科目だとどの科目も中途半端になるのです。私立3教科だと通常、国語・社会・英語で、実質国語と英語、即ち言語系の科目だけですから、到達度が高くなるのは当たり前です。5教科7科目型だと科目数が多いため、1つ1つの科目の到達度が低くなり、総合点での勝負となります。大学文系の場合、言語が最大の道具ですから、その到達度が高い私立文系が優位なのは当たり前です。例えば、旧国立帝大で、私立の早大や慶大に学力で勝てるのは東大、京大だけです。その他の旧帝大はMARCH並みです。司法試験を見ても慶大や早大が200名近い合格者を出しているのに対して、国立大学で100名以上の合格者を出しているのは東大と京大のみです。その他の旧帝大はMARCH並みです。これが文系科目で見た学力の現実であり、就職しても私立文系の優位は変わりません。むしろ入試科目が少なかった分だけ遊ぶ時間があり、仲間づくりに優れている点で私立文系に分があります。

このような中で国立文系の学生はどういう戦略を採ればよいのでしょうか?大学はそもそも教養を付ける所であり、本来文理融合したリベラル・アーツ教育が望ましいとも考えられます。しかし企業が大学生の採用で即戦力を求めるようになっている現在、リベラル・アーツ教育を受けても就職が難しいという現実があります。リベラル・アーツ教育の場合、就きたい職業があればそれに必要な職業教育を実施する大学院(例えば法科大学院、会計大学院など)に進学するということになると思われます。

国立文系の多くが専門学部制をとっている中で、国立文系の学生が目指す方向は、ずばり文理二刀流です。国立文系の学生の強みは、入試のために数学や化学、生物なども不得意ではない、やればできるということです。そしてこれが分からないに変わるのは、大学に入って全くこれらの科目に触れなくなるからです。一体入試にこれらの科目があったのは何のためだったのかと言いたくなります。実は大学に入ってこれらの科目を捨てることは大きな間違いです。文系出身者の職業でも科学的知見は不可欠です。というより科学的知見の深さや広さが仕事の成功、不成功に繋がると言ってよいと思います。例えば製薬企業のMR(医薬品情報提供者、営業職)には文系出身者も多いのですが、これは生物や化学の知識が欠かせません。また、弁護士でも特許訴訟となると弁理士資格を持った弁護士でないと手に負えませんし、医療過誤事件でも医学の知識が不可欠です。このように文系の職業でも高度な仕事になれば科学的あるいは工学的知識が不可欠なのです。今後この方向は益々強まります。

従って国立文系の学生は、入試のために身に付けた数学、化学、生物などの理系の知識を大学で捨てず、逆に深める必要があります。例えば、工学系のコンピュータサイエンスの授業、生物系のDNA抽出・遺伝子鑑定・PCR操作の実習、薬学系の医薬に関する授業などを積極的に履修する必要があります。文系の授業は出なくても教科書を読めば十分です。弁護士になる場合、法科大学院に行くより独学で予備試験を受けた方が合格率が高いことからも分かります。理系の授業や実習は大学でしか受けられないものですから、これを生かさない手はありません。大学としても国立文系の学生の強みを生かすため、文系の学生向けに理系の授業を積極的に用意すべきだと思います。

文系出身でありながら日経サイエンスや日経バイオが愛読書という人を目指すべきです。これがあなたの価値を高め、新しい展開を可能としてくれます。