司法取引制度は公職選挙法違反事件こそ使いどころ
昨年7月の参議院議員選挙広島選挙区で当選した河井案里参議院議員の公職選挙法違反の捜査が大詰めになっているようです。3月3日広島地検は、案里議員の公設秘書1名、案里議員の夫の河井克行衆議院議員の政策秘書1名および選挙のスタッフ1名を逮捕したと言う報道です。連座制の対象である案里議員の秘書が逮捕されたことから、案里議員の当選が無効になることは間違いないと思われます。さらに夫である克行議員の政策秘書も逮捕されていることから、広島地検は克行議員を総括責任者として逮捕することを視野においていると思われます。案里議員の他克行議員の携帯電話も押収したというという報道からもこのことが伺われます。あるいは克行議員の選挙の際にもお同じことをしていたという報道もあり、克行議員自身を公選法違反で起訴する可能性もあります。久々にトカゲのしっぽ切りではなく、悪の親玉を剔抉する決意のようです。
事件の内容としては、昨年7月の参議院議員選挙の際、車上運動員(ウグイス嬢)を集めるために、法定の1日当たり15,000円の日当を守らずに、30,000円を支払ったという容疑のようです。この他企業回りの運動員やビラ配りのアルバイトにも報酬が支払われていたという報道です。公職選挙法上の選挙運動員として届けられていない場合、金銭の支払いは買収に該当するようです。案里議員陣営には自民党本部から1億5,000万円の選挙資金が支払われており、資金が潤沢にあったのが今回の公職選挙法違反の背景にあるようです。ひょっとしたら、自民党幹部の秘書が関与していた事実が明らかになるかも知れません。
これまでの公職選挙法違反の事件では、秘書や関係者が事実関係を否定し、議員の関与を立証する供述や証拠は得られないケースが多かったように思いますが、今回の事件では、割とあっさりと関係者の供述が得られ、証拠も挙がっている印象があります。それは何故かと言うと、捜査に司法取引制度の考え方が取り入れられているからではないでしょうか。司法取引制度は、企業犯罪や組織犯罪、薬物犯罪など対象が限定されており、公職選挙法違反事件には使えません。しかし考え方としては、雑魚を見逃す代わりに大魚を捕獲するということであり、公職選挙法違反事件も対象となっていてもおかしくありません。従って、今回の捜査にはその考え方が十分反映されているように感じます。
考えてもみて下さい。現職衆議院議員、それも首相補佐官や法務大臣を務めた総括責任者がいるのに、秘書や関係者だけ起訴しても意味がありません。そこで秘書や関係者には、罪を軽減または免除することを暗に示して、供述を引き出すとともに証拠の提供を受けている感があります。その証拠に今回の事件の場合、お金を貰った人は逮捕されていません。
司法取引制度は、2016年の刑事訴訟法改正より導入され、2018年6月から実際に使えるようになっています。この制度は検察が待ち望んだもので、この制度の成立には、現在横紙破りの定年延長で話題の黒川東京高検検事長が法務省官房長および事務次官として尽力しています。2018年11月の日産ゴーン会長逮捕はこの司法取引制度の威力を誇示するためになされたものであり、これにより黒川検事長の功績を浮き彫りにし、次期検事総長就任を実現する狙いがあったものと思われます。しかしその不純な動機から筋違いな逮捕となり、ゴーンのレバノン逃亡、ゴーン亡き日産の経営危機を招いてしまいました。これで司法取引制度も暫く封印かなと思っていたら、その考え方は今回の公職選挙法違反で生かされているようです。司法取引制度は、公職選挙違反の捜査にこそ使える制度であり、適用対象に加えるべきだと思います(議員の抵抗が強そうです)。
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