3月24日の日経新聞電子版に広島高検検事長交代の記事が出ていました。定年による退職とのことですが、広島高検と言えば昨年の参議院広島選挙区での河井案里参議院議員の選挙で、秘書などが公職選挙法違反容で逮捕され取り調べ中であり、起訴の可否が決まっていない中で検事長を交代させるのは不可解な印象です。その後秘書2名の起訴が発表されましたので、事件に一区切りがついたことを理由にしたかったのでしょう。東京高検の黒川検事長を横紙破りの解釈変更で定年延長しておきながら、重要な事件を抱えた広島高検検事長については定年延長しなかったのは、黒川検事長の定年延長は政治的意図が濃厚ということを証明したようなものです。そして後任が中原亮一横浜地検検事正ということです。横浜地検検事正は有力なポジションですから、広島高検検事長になるのはおかしいことではありません。しかし、この人事は案里議員の選挙の公職選挙法違反事件に気を揉む安倍政権が練りに練り上げた人選だと思われます。安倍政権としては、案里議員の秘書の起訴および連座制適用による案里議員の失職は覚悟していると思いますが、総括責任者である可能性が高い夫河井克行衆議院議員の起訴は何としても阻止したいところです。克行議員は安倍首相補佐官を務め、昨年9月の内閣改造では法務大臣に就任しました。その後案里議員の選挙における公職選挙法違反事件の捜査が始まり、昨年12月に法務大臣を辞任しました。克行議員を法務大臣に任命した安倍首相の目的は、稲田検事総長を勇退させ、安倍政権への貢献度が高い黒川東京高検検事長を検事総長にすることだったと思われます。克行議員が就任早々その動きを本格化したことから、案里議員の選挙における公職選挙法違反の事実を掴んでいた検察側が捜査に乗り出し、克行議員を法務大臣辞任に追い込んだと考えられます。安倍首相はその後の法務大臣に子飼いの森まさ子衆議院議員を任命し、かつ黒川検事長の定年を検察庁法の解釈を変更してまで延長し、目的完遂の姿勢です。

安倍首相が黒川検事総長の実現に執念を燃やすのは、2つの狙いがあってのことと思われます。1つは、克行議員の起訴を阻止することです。新聞報道に基づけば、案里議員の選挙の総括責任者は夫である克行議員で間違いありません。またウグイス嬢への公職選挙法違反の日額3万円の報酬支払いは、その前の克行議員の衆議院議員選挙でも行われていた疑いが濃厚となっています。従って、克行議員は案里議員の選挙の総括責任者としてばかりでなく、自身の選挙での公職選挙法違反でも起訴できます。

安倍政権はこれを何としても阻止するつもりです。安倍首相の側近議員である甘利衆議院議員の斡旋収賄容疑では、黒川検事長（当時法務省官房長・事務次官）を通じて見事に阻止しました。また森友学園事件の際には、財務省の佐川理財局長（当時）が命じた公文書偽造も黒川氏の尽力で不起訴に持ち込んだと言われています。この2つの事件で思い通りになったことから、安倍首相は検察も思い通りに動かせるという自信を持ったようです。そこで今度は何としても安倍政権への貢献度が高い克行議員を不起訴にしてあげようと考えているようです。

もう1つは、安倍首相の任期も終わりに近づき、首相退任後のことを考えてのことと思われます。今回克行議員を不起訴にできたとしても、安倍首相退任後これらの安倍政権時代の不起訴案件に新しい事実が加えられ、再捜査・起訴される可能性があります。黒川検事総長ならば言わば共犯であり、検事総長にしてくれたことに恩義を感じるでしょうから、再捜査や起訴はありません。安倍首相自身も桜を見る会などで公職選挙法違反の疑惑を抱えており、自身が捜査の対象となる可能性もあります。これらを防ぐために、何としても黒川検事総長を実現したいのです。

今回の広島高検検事長交代は、これらに向けた布石です。高検検事長の任免権は内閣にあり、内閣人事局で候補者の適格性が審査されることになります。これまでは検事総長が指名した候補を承認するだけだったと思われますが、今回は稲田検事総長が提出した候補者を承認せず、何人かの候補者の中から中原亮一横浜地検検事正を承認したものと考えられます。もちろん中原検事正が克行議員を起訴しないという約束をしているとは思えません。しかし、中原検事正が克行議員、案里議員と同じ慶応大学OBであり、かつ克行議員と同じ法学部卒という点に着目したものと思われます。慶応OBの結束力の強さはつとに有名ですから、OBに忖度して起訴しないだろうという読みがあったと思われます。

中原新広島高検検事長の人となりは分かりませんが、この人事は見れば、今回の公職選挙法違反事件は、案里議員は秘書が有罪となり連座制が適用され議員失職、克行議員は不起訴で確定だと思われます。刑事罰も政治が左右するとなると日本は暗黒社会です。日本はサルに支配された国になったようです。