熊本市、名ばかり政令指定都市の実体を晒した109票不明事件
3月22日投開票の熊本県知事選挙において、熊本市中央区の開票で投票した人数より確定した票数が109票も少ないと言う事態が発生したという報道です。この違いが発生する原因としては、(1)投票用紙を受け取った人の人数が間違っていた、(2)投票用紙を受け取った後投票せずに持ち帰った人がいた、(3)開票前後に票が人為的に抜き取られた、の3つが考えられます。(1)については、来場者名をチェックし投票用紙を渡しているので、間違いようがありません。(2)については、たまに迷いが出て投票しないで帰る人はいると思いますが、109人に上ることはあり得ません。それも投票者は記入後投票箱の前を通って出口に向かうことになっており、選挙管理人の目が光っています。投票せずに帰る人がいたら選挙管理人が注意しますので、1人、2人の見逃しはあっても、109人の見逃しはあり得ません。
そうなると、(3)以外にあり得ないことになります。この疑惑について中央区選管は、今後開票に当たった熊本市職員125名に聞き取り調査を行う予定とのことですが、「目的が見つからず可能性は低い」と言っているとのことです。これは「一応聞き取りはしますが、結果は抜き取りはなかったということに決まっています」と言っているようなものです。元熊本市長が立候補しており、熊本市職員には元市長にお世話になった人を中心に、動機(目的)はあります。
報道によると、熊本市の選管は、開票作業でこれまでミスを重ねてきているということです。2009年衆院選では投票記録の転記を誤り、比例票を一時紛失するなど初歩的なミスを連発。2012年衆院選では集票システムの設定ミスなどで、比例代表九州ブロックの議席確定に影響を与えた。2019年の統一地方選でも、県議選と市議選の不在者投票を期日前投票所で受け付けたため、計11票が「不受理」となった(不在者投票は期日前投票所ではできない)。などが実例として挙げられています。
この問題を受け、大西熊本市長は第三者委員会で調査する方針とのことですが、第三者委員会は実効性のある調査力を有しないため、結論は見えています。「調査したが原因は分からなかった」「職員の意識改革が必要」ということで終わりです。その結果熊本市では今後も同じようなことが繰り返されることになります。
今回の選挙は、結果的に現職が大差で勝利し、不明の109票は大勢に影響なかったことになりますが、接戦になっていたら勝敗を決する票になっていたかも知れません。またそれを狙いに抜き取った可能性もあります。だとすれば選挙の公平性を犯す重大な行為ですので、警察の捜査対象になってもよいように思えます。警察が捜査すれば、結論がどうなっても納得が行きますし、今後こう言った事件が起きないための抑止力となります。
私は、2018年6月4日のブログ「熊本県・市は復興予算バブル?」で熊本市役所の杜撰なお金の使い方と内向き組織の問題点を指摘しました。今回の問題はあの指摘が別の現象として現れたものです。今回元市長が立候補した選挙で、熊本市職員125名が開票に関わり、熊本市役所がある中央区の開票でこの問題が起きたことを考えれば、この見方はあながち否定できないと思われます。
熊本市は2012年4月から政令指定都市となっています。全国で20番目、九州で3番目ということです。今回の問題は、政令指定都市の指定要件の欠陥を示しています。政令指定都市の指定要件は人口70万人以上であり、行政執行力が政令指定都市にふさわしいレベルに達していることという要件が欠けているのです。熊本市も人口70万人の要件を充たすことに奔走し、富合町・城南町・植木町を合併して実現に漕ぎつけました。しかし実体的には合併前の60万人都市、と言うよりは30~40万人都市の行政力しかありませんでした。これは企業の合併においてもよく見られる現象です。例えば売上高50億円、30億円、20億円の企業が合併して、売上高100億円の企業が誕生したとします。しかしこの会社の経営力は50億円の状態であり、100億円の経営力ではないのです。そのため、合併後暫く勘違いした経営を行い、問題が噴出します。合併により人口を増やした自治体にも同じ傾向があります。特に政令指定都市への移行はではこれが顕著だと思われます。
熊本市は、実質的な政令指定都市移行要件のうち、行政執行力が先輩政令指定都市と比べて相当落ちると考えられます。行政執行力の基準は、横浜市並み、最低でも神戸市や福岡市並みに置くべきでしょう。この基準を満たしていない熊本市は、レベルが高い横浜市などから業務に熟練した人材を受入れ、業務改善室を設け、業務の改善・向上に当たるべきだと思います。3年程度でこの基準を満たせない場合、政令指定都市を辞退すべきです。あるいは国として政令指定都市の指定を取り消すべきだと思います。熊本市には、福岡市が「福岡NEXT」のスローガンを掲げ、常にステップアップを目指すような向上心が感じられません。