小泉元首相の自責の念から出た安倍首相への辞任勧告
小泉元首相が週刊誌のインタビューで「安倍さんは辞めざるをない」と述べたことが話題になっています。小泉元首相と言えば安倍首相の生みの親とも言える人です。安倍首相の今の地位は、2000年7月に小泉元首相の推薦で森内閣の官房副長官に就任したことから始まっています。その翌年の2001年4月の小泉内閣で再任し、そして2003年9月には幹事長に抜擢しています。大臣経験のない異例の抜擢でした。更に2005年9月には小泉内閣の官房長官に就けています。そして小泉首相任期満了に伴う2006年9月に首相就任です。これを見れば安倍首相は小泉首相が作ったと言って良いと思います。
その小泉首相が「安倍さんは辞めざるをえない」と発言したのですから、一番ショックを受けたのは安倍首相だと思います。安倍首相はどんな時でも小泉元首相は自分の味方だと思っていたでしょうから、一方ならぬ驚きだったと思います。
週刊誌の記事を読むと、辞任勧告の最大の原因は、森友事件で当時の佐川財務局長の指示で実際に改竄を行い自殺した近畿財務局の担当課長の遺書に、改竄は佐川局長の指示によるもと書かれていたことから、この問題は安倍首相の国会答弁(「私や妻が関わっていたならば、総理大臣も国会議員を辞める。」)から出たものであり、安倍首相に責任があるというものです。これ以外に桜を見る会に安倍首相の地元の後援会員を多数招待していた件も上げています。
しかし私は、黒川東京高検検事長を定年延長してまで検事総長にしようとしていることが最大の原因だと思います。なぜそう考えるかと言うと、小泉首相は、法務行政は検察官を信頼し任せ、法務大臣には法律の素人で法務行政に介入できない議員を任命していたからです。代表的な例が2004年9月に任命した南野智恵子参議院議員の法務大臣任命でした。南野議員は看護師および助産婦の資格を持つ人で当時69歳、法務は全く素人でした。国会の法務委員会での答弁では、答弁の前に傍らに控えた官僚からレクチャーを受け、それでも答弁に詰まり、見ていても「何故この人を法務大臣に」と思う程でした。私は「これは早々に更迭か辞任だな」と思ったものでした。その予想に反し小泉首相は翌年9月の内閣改造で南野法務大臣を再任したのです。
最近安倍首相が法務大臣人事を安倍政権の法的生命線と考え、安倍政権幹部に検察の追及の手が伸びないようにするためや、先ほどの森友事件で安倍首相のために議事録改竄を指示した財務省幹部が起訴されないようするためなどの目的で、自分に近い人を任命しているのと対照的です。昨年9月、現在公職選挙法違反で広島地検が捜査中である河井克行衆議院議員を法務大臣に任命したのは、安倍首相の意を受けて検察を動かした黒川検事長を検事総長に就任させるためと思われます。またその後任の法務大臣に弁護士資格を持つ森まさ子衆議院議員を就けたのも同じ目的によるものと考えられます。
これを見て小泉首相がド素人の南野議員を法務大臣に任命し続けた理由が分かったような気がします。それは法務省そのものである検察官に「法務行政は君らに任せた。国民の法律レベルは南野さんみたいなものだ。だから君たちが責任を以て当たれ。もし俺が違法なことをしたら俺を逮捕するのが君らの仕事だ。」というメッセージだったような気がします。小泉首相にとっては、首相と言えども絶対に介入してはいけない部門が法務省だったのです。だから今安倍首相が法務大臣に自分の子飼いの森議員を就任させてまで、検察機能を意のままにしようとしていることに我慢がならなかったのだと思います。
安倍政権の3本柱である安倍首相、麻生財務大臣、菅官房長官は、いずれも小泉首相が大臣に抜擢し、今の地位に繋がっています。安倍首相に対する辞任勧告は、自分が抜擢した三人が日本の三悪人になってしまったことから来る小泉元首相の自責の念に基づくものではないでしょうか。