現金支給10万円の原資は税金ではない
4月17日、安倍首相はテレビで正式に国民1人当たり一律10万円支給することを発表しました。私はコロナ感染拡大で収入が激減し、生活の維持が困難になった人たちに限定して30万円給付する案に賛成だったので、この急変にはがっかりしています。10万円支給するなら、二階幹事長が言ったように30万円は対象を限定して福祉対策として実施し、その後(前でも良い)経済対策として一律10万円の支給を行うべきです。そうすれば政策の整合性もとれ、安倍首相の浅はかさが浮き彫りになることもなかったと思われます。
一律10万円支給案は、国会議員でも多数派でしたし、テレビのコメンテーターやネット民の間でも圧倒的多数派でした。しかし、今先ず必要なことは生活の維持さえ困難になった人たちの救済であることは、本当は皆理解していたと思います。従って一律10万円支給は「言ってみただけ」という点があったと思われます。だからこれに決まったと知って皆さん「言って見るもんだな」という気持ちだと思います。
一律支給派の根拠として「みんな税金を払っているのだから」という主張が相当見られました。この主張からは払った税金に応じて支給すべきとなって、一律支給にはなりません。また、そもそも今回の支給は、税金が原資ではありません。原資は国債です。
日本の2020年度予算案は総額103兆円です。この原資は税金が64兆円、国債33兆円、その他6兆円です。原資は収入の見込みですから、税収は10兆円近く減ることが予想され、その分国債の発行額が増加します。一律10万円支給の総額は約14兆円となりますので、この原資も当然国債になります。今回のコロナ経済対策としてその他に20兆円以上の予算措置が考えられ、これも国債を発行して原資を確保します。そうなると国債が追加で40兆円以上発行されることになると予想されます。
2019年末の国債残高は1037兆円となっていますので、これに今年70兆円以上増加し2020年度末には約1,100兆円の残高になることになります。よく話題になるように国債は借金であり返済が必要となりますが、果たして返済できるのでしょうか?結論は「返済できない」です。日本の今の経済力や今後の人口減少を考えるとこの金額の借金は返済できません。ただし日本の家計の金融資産はコロナ前で約2,000兆円となっており(コロナの影響で相当目減りしている)、家計がこの半分を拠出すれば返済できますが、誰も拠出しないと思います。では最終的にどうなるのは?それは国債の保有者が泣くことになります。日本の国債は全体の46.8%(2019年度末)を日銀が保有しています。日銀は国の機関ですから無理やり借金の返済を迫ることはないし、返さなくても文句は言いません。この意味では子供の親からの借金と同じです。最終的には踏み倒すことが想定されています。問題なのは日銀以外の国債保有者です。銀行(15%)、生損保(21%)などが大口保有者ですが、ここには返済する必要があります。最も恐れられる保有者は海外投資家ですが、この割合は7.6%しかありません。従って、国債の保有者から見るとヤクザや闇金のような保有者はいないので、強引な取り立てはないし、日銀以外の保有者に返済して行く分には全く問題ありません。最終的には日銀保有分が踏み倒されることになります。踏み倒されても日銀は痛くも痒くもありません。それは日銀が国債を購入した資金は誰かから借りたものでもなく、日銀が印刷した紙幣だからです。損をするのは印刷代くらいです。
ならば何故国債の発行を押さえるよううるさく言うのか?それは「財政規律を守るため」です。どういうことかと言うと、例えば親が資産家の息子がいたとします。息子は普通のサラリーマンで年収600万円にもかかわらず、親から毎年400万円の支援を受けて支出1,000万円の生活をしているとします。このような状態では息子は働く意欲が湧かず、周囲の信頼も得られません。そのうち親の資産が無くなれば生活は困窮することになります。もし他から借入でもしていたら返済不能となります。そため金融機関はなかなか貸さないことになります。このように自活自転できない資金状況ではいずれ破綻することになります。従って、国の財政にも収支の均衡が求められてくるのです。もちろん日銀引き受けは、日銀が紙幣を増刷することになりますので、流通する紙幣の量が増加し、インフレの原因になります。しかし、日本の場合、デフレが長期間続いており、今後もインフレになることはちょっと予想できません。増加した紙幣は個人や法人に貯えられている、或いは海外に投資されていると思われます。
以上により今回の一律10万円支給の原資は、税金ではなく国債であることが分かるとともに、国債の増発は何ら問題ないことも分かると思います。