定年延長より定年前倒しを図るべし

国家公務員の定年を65歳に段階的に引き上げる定年延長関連法案が4月16日の衆院本会議で審議入りし、今国会で成立する見込みのようです

この法案が成立すれば、現在60歳の定年が2022年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2030年度に65歳となります。その趣旨を政府は「高齢期の職員を最大限活用し、次の世代に知識や技術、経験を継承するため」と説明しているようですが、本当の狙いは年金支給年齢を70歳からに繰り下げることにあります。公務員は賃金が税金から支払われますから、問題なく実施できますが、これを民間に強制するとすれば大きな弊害が生じます。政府は更に70歳まで雇用義務を負わせようとしているようですが、これは企業および雇用者両方にとって良いことはありません。

それは、日本の企業は終身雇用制を元に賃金計画を作成しており、1人当たりの生涯賃金を設定しています。例えば60歳定年制の場合これが2億円とします。70歳まで雇用期間が延びたとしても、この生涯賃金2億円は変えられません。それは企業が存続していく場合にどれだけの金額を賃金に振り向けられるかを考え、生涯賃金を決定しているからです。即ち、雇用期間が増えれば、1期間あたりの賃金が低くなることを意味します。多分、多くの企業は現在55歳としている役職定年を50歳に引下げて対応するでしょう。そうすれば役職手当が5年分少なくなりますので、それを5年延びた雇用期間の賃金に充てられます。同時に65歳から70歳までの社員に与えられる仕事は多くないので、なるべく早く辞めてもらうため希望退職の募集を頻繁に行うこととなります。希望退職と言っても実質的には退職勧奨ですから、いつ自分が対象になるか分からず、社員を不安にします。

このように70歳雇用制にしても、70歳まで働ける人は僅かな一方、70歳雇用の元に生涯賃金は計算されますので、1期間当たりの賃金水準が切り下がります。このように70歳雇用制は良いことはないのです。先ず国際企業は受け入れられませんから、日本から国際企業の事業所が撤退すると考えられます。また、日本に本社があるグローバル企業が本社を海外に移転します。その結果、日本の雇用の受け皿が小さくなり、雇用環境が悪化します。

今後日本が取るべき雇用政策は、定年延長ではなく、定年前倒しです。例えば定年を50歳とすることです。これにより50歳までに生涯賃金2億円が得られるようにします。年金や健康保険料の徴収総額も前倒しで徴収されることになります。同時に企業では企業年金部分の積立を厚くします(企業年金の額が多くなる、または支給を早める)。

そして50歳以降については、各人が体力や技能、資力、今後の人生設計に応じた選択をすることにします。企業が引き続き勤務することを望み、本人もそうしたければ、継続雇用(再雇用)となるし、企業または本人が継続雇用を望まなければ、それで雇用契約は終了します。

今後どうするかは、本人の希望と世の中のニーズによって決まります。これまでの仕事のノウハウを生かすために、中小企業に勤務する人も出て来るでしょうし、自営業を始める人も出て来ると思います。しかし思の他多いのは悠々自適の生活を送る人だと思います。

この方が企業および個人の実情に即し人道的です。私はこちらを目指すべきだと思います。

(尚、この内容は今の韓国の実体に近いように思われます。韓国の大企業の退職年齢は約50歳と言われています。しかし入社後の賃金水準が高いため、生涯賃金で見れば日本の大企業の定年までの賃金より多いと思われます。これが韓国企業躍進の源となっており、日本を追い抜きアジアの最先進国なった要因ではないかと思います。)

追伸:

定年を延長するか前倒しするかは企業に選ばせる制度が望ましいと思います。現在の63歳定年制を65歳まで延長するか、それとも65歳までの生涯賃金を50歳までに支払うことにして、50歳定年制するか、会社が選べることにするのです。商社や証券、製薬企業、IT会社など激務の会社は50歳定年を採用すると思われます。加齢による体力や働く意欲、知力の衰えという現実を無視して、年金制度のために定年を延長するのは、雇用する企業の破綻、ひいては雇用の縮小を招きます。